. 本作は真・恋姫無双のネタバレを多量に含みます。

    2.真・恋姫無双、魏エンド後のストーリーです。

    3.原作プレイ後にお読み頂く事を激しく推奨します。

    4.華琳様の涙を拭い去るため頑張ります。

    5.一部、登場人物の名前が違う漢字に変更されている場合があります。

 

 

『御遣いを我が臣下に迎えるを以って、

五胡の蛮族を平定すべく号を下し、

急ぎ兵を率い蜀へ発つ旨伝え、玄徳へ早馬を出さん』

孟徳秘龍伝・巻の弐「往天戦」より

 

 

 

(チェンジ!)

恋姫無双

―孟徳秘龍伝―

巻の弐・往天戦

 

 

 

 天一刀の帰還から二週間が経過した。正式に武将として曹操に召し抱えられる事となった彼だが、実のところ問題は山積みなのである。将としての資質についてはある意味申し分なく、特に実戦での部隊指揮においては傑出した非凡さを発揮する人物だ。その機転と行動力で曹操の窮地を救った過去を踏まえれば無能と一蹴することなど出来るはずもない。

 ただ幾度も実戦を経験し、最前線を生き延びた天一刀を歓迎する声は強かったが、同時に他方では彼の「武」に対する不安を訴える声も大きいというのが現実だった。

 天は二物を与えず。

 残念ながら彼には一騎当千の力など無い。せいぜい良くて街のゴロツキを警棒持って取っ組み合いができるぐらいだ。先日の御前試合で手合わせした春蘭曰く「以前よりは幾分も戦えている」とのことだが、それでも武将として配置するには他の将と雲泥の差がある。

 そこで曹操はこの案件については判断を保留し、前の様に体裁の良い意見役として側に置くことにした。その上で張遼などの調練に参加させ、充分な実力を得たならば武将に昇格させる方向でそれぞれの臣下を説き伏せたのである。

 逆に言えば一生ヒモ同然と言うことも在り得るが、そういう逆境・向かい風は天一刀にさらなる奮起を促すことを曹操は知っていた。

「――――――で、どうなの? 霞」

「やる気はあるんやけど、まあ、時間が足らんわ」

 部隊の調練を終えて城に戻った霞を捕まえて聞いてみると、予想通りの答えが返ってきた。曹操も半ば呆れ顔になりながら、今も中庭でボロボロの鎧を着たまま双戦斧で素振りを続ける天一刀を見下ろした。

 二人がいるのは城の最上階にある曹操の執務室だ。寝室は五胡の刺客が襲撃した折に(恐らく)天一刀の一撃によって崩落したため、寝起きも執務室でしている。

 さて、彼に課された昇格の課題は春蘭ら各武将のうち一人と一騎討ちで勝利すること。先の御前試合のような騙まし討ちは当然無効で、真っ向から打ち合って勝つことが条件だ。

 その練習相手を快く引き受けた張遼だったのだが、この一週間で彼女の七戦七勝。つまり手加減されても天一刀はまったく勝つことが出来ない。ちなみに今日は武器を跳ね上げられてがら空きとなった脇腹への石突の殴打によるKO勝ち。とても敵の精鋭一人を一撃のもとに両断した男とは思えぬ惨敗であった。

「人の部屋をああも壊してくれて、なんでこっちは駄目なのかしらね」

「あー、うん。それはご愁傷様、としか言えんわ〜」

 あの夜、家具や寝台もろとも床が階下へ落下したあの寝室跡を思い出し、苦笑しつつも張遼は至極真面目に答えた。

「なあ華琳。カズトなぁ、持っとるもんは持っとるしきっと磨けばなんとかなるかもしれん。せやけど、やっぱ一朝一夕でウチらみたいにはなれへんって」

 厳しい修行と実戦を何度も潜り抜けた屈強の武人達は、戦場に立つだけで無類無双の強さを発揮する戦士へと変貌する。それは肉体のスペックを劇的に変化させるほどの、あえて表現するならば一種のマインドコントロール……精神制御によるものだ。普段は温厚な夏侯淵や典韋も、いざ戦が始まれば幾千の兵士を平然と殺す戦闘者となる。氣などとは違う、もっと根本的な部分の回路が切り替わるのだ。

 つまるところ、まだ天一刀はそういう経験が根本的に不足していると張遼は言う。

「カズトは何度も戦場に出とるし、部隊を指揮して戦っとる。けど、その手で敵の……人の命を奪ったことなんかまず無いんとちゃうか?」

「それは、少なくとも覚悟は無いと思うけれど」

「せやったら幾ら調練したって良く出来た新兵止まりや。一線越えな、どうにもならん」

 それは当然の結論だ、と曹操は内心思っていたし、すでに自分も同じ考えを抱いていた。

 彼は自分達とは異なる国で生まれ、異なる価値観を持っている。それはこの時代にとっては非常に有益であって同時に有害でもあった。人皆全て平等を掲げる天の国の思想は、支配者と被支配者の階級に別れる今の時代では内政の妨げにしかならない。民衆が支配を受け入れているのは自分達の生活の保障と、治安や経済対策などの難解な問題に対処してくれる「利」があるからこそ。何より政を執り行う曹操らは英傑が自分達とは違う別格の存在であり、決して成り代わることの出来ないものだと認識しているからだ。その両者を全て同じ人間であると見なし、民衆にも彼らと同じことが出来ると説いては今の国家体制の必要性が無くなってしまう。

 つまり、自己と他者を同価値として認識する彼にとって人間を殺すという行為は己を殺す事と同義に当たる。人はそう簡単に自分を殺すことは出来ず、振り下ろす刃が鈍るのは必然であった。

 その天一刀が初めて命を奪ったのは、恐らく魏へ帰還した際に曹操を襲っていた刺客を斬った時だろう。曹操自身、記憶が鮮明ではないので一概にそうとは言えないが、それでも彼が敵兵を倒したことは間違いない。落下した瓦礫と共に発見された兵の死体は頭から股間まで、見事な縦一文字に切断されていた。魏で最高の武を誇る夏侯惇が現場に到着していなかった以上、消去法で天一刀の所業と判断されたのだ。

 曹操が思うに、彼の胸中は腰を据えた覚悟もなく勢いで人を殺めた罪悪感に苛まれているのではないか……少なくとも斧を振り下ろす天一刀の眉根はきつく寄せられていた。

「華琳様!」

 不意に部屋の戸が開け放たれ、息せき切って現れたのは魏の誇る名軍師の一人、郭嘉(真名・稟)。手には書簡を携え、汗を滝のように流す彼女の様子から城中を探し回っていたことが伺える。

「どうしたの、稟。騒がしいのはあまり好ましくないわよ」

「一大事でございます! 今しがた劉備より早馬の伝令が参りまして、五胡鎮圧の応援要請が……しかも敵勢は日に日に兵を奪取した居城に集結させ、その数すでに百万に迫る勢いと!」

 郭嘉から受け取った書簡に眼を通すと、なるほど言うとおりの内容が書かれていた。筆跡から見て劉備自身が筆を取ったようだ。末尾に彼女の印も押してある。

「これが事実なら劉備だけでは押さえ込めないわね」

「はい。間諜の報告と照らし合わせたところ、やはり同様の動きが」

 百万近い敵軍を相手にするには劉備の軍は小さすぎる。予測の域を出ないが、彼女の考え方ならば各地の砦を中心に迎撃作戦を行なって増援到着の時間を稼いでいるはずだ。無駄に死者を出すことを好まぬ玄徳ならば、そうするだろう。

「……霞! 明朝、兵五百を率いて蜀へ出陣! 遊撃戦にて五胡を迎撃、必要ならば派遣している桂花と共に劉備の指揮下に入れ!」

「うっし、分かった! せやけどぉ、ウチだけはキツイで? 誰かお手伝いさんを頼みたいんやけど」

 返す張遼の口元がにやり、と吊り上がる。先の今で曹操も判らぬはずが無い。これはいい機会なのだ、実力を見極める……

「稟、日没までに軍義を召集なさい。至急よ」

「ぎょ、御意!」

 

 

「ふっ、ふっ……ふぅ……こんなもんか」

 素振りを終えた天一刀が持つ双戦斧を大地に突き刺す。自身も崩れ落ちるように腰を下ろして竹筒の水を一気にあおった。喉を駆け抜ける清涼感が熱く滾った全身を冷やしてくれた。

 とはいえ、内心の焦りは治まらない。練習に付き合ってくれている張遼と数合すら打ち合えずに敗北し、その状況が一向に好転しない以上は仕方のないことだった。いや、そもそもホンゴウカズトが武将となる必要は何処にもない。曹操の側に仕えるだけなら文官なり軍師なり、適職はあるのだから。

 天一刀にはしかし、それらを選択する余地はなかった。奈落の底で出会ったあの男は、帰還に必要な条件を遵守しなければたちどころに自分は消失してしまうだろうと告げた。

 その条件は三つ。

 一つめは、姓名を「天一刀」に変える事(真名については対象外、らしい)。

 二つめは、武将として曹操に仕える事。

 三つめは、何があっても双戦斧を棄てない事。

(今思えば、変な条件だよな……)

 本当は別に守らなくても良いのではないか。あの男の力で帰還を果たした以上は条件を守るべきだろうが、言うことなど逐一信用する必要は何処にもない。

(でも、他に何か言っていたような?)

 いくらホンゴウカズトとて、武将の真似事など逆立ちしたって出来るわけがない。槍働きともなれば尚更で、彼が瓜大王に反論したのは当然のことだった。第一、こんな無茶苦茶な条件などつけずとも良かったのではないか。

 その時、何か突拍子もないことを聞いた気がするのだが……はて何だったか? そのあたりの記憶だけ綺麗に抜け落ちてしまっている天一刀だった。

「なるほど、なるほどー。お兄さんの奇跡の生還の裏には、そんな取引があったのですねー」

「おうわだっ!?」

 突然、背後から現れたのは曹操が擁する軍師の一人である程c(真名・風)だった。頭の上に乗っている相棒の宝慧(人形)の辛口は相変わらず。違うところがあるとすれば、赤色に変わっていることぐらいか。

「えーと……喋ってた?」

「…………ぐぅ」

「寝るなっ!」

「おぅ」

 狸寝入りで誤魔化そうとする程cの頭を軽く小突いて天一刀は深い溜息をついた。

「でもお兄さんが戻ってきてくれてよかったのです。お兄さんでないと稟ちゃんの欲求不満は解消できませんから」

「そういう意味でか!」

「風も、嬉しいのですよ?」

 どこかのんびりとしていた程cの口調が少しだけ甘さを含んだものになる。

「ところでさ、風。例の刺客について分かったことってあるの?」

 休憩を打ち切り立ち上がった天一刀に尋ねられ、程cも軍師の顔に戻った。

「そうですね……お兄さんは何処までご存知ですか?」

「襲ったのが五胡の兵士ってことと、霞たちが周辺を捜索したけど仲間は見当たらなかったってことぐらい」

「ふむ」

 天一刀もその辺りの事情は詳しく聞かされていない。曹操や夏侯淵に尋ねてみたが、彼女達もまだ全てを把握しているわけではないと言う。侵入経路などもまったく見当がつかないのだそうだ。

「ただ、情勢に変化はありましたよー。先ほど劉備さんのところから伝令が来て、五胡の軍勢が急激に勢力を拡大して手が付けられないのだとか」

「劉備って、蜀の?」

「それ以外に劉備さんが居たら教えてほしいですよー。ともかく敵兵は総数百万とか」

「百万……」

 その情報が事実だとすれば蜀軍だけでは押さえきれないだろう。応援を求めるのも仕方がない。

「あ、たいちょー! こんなところに居たなのぉ〜!」

 池の向こうから姿を現した于禁が息を切らせながら駆け寄ってきた。

「緊急の軍義なの、全員玉座の間まで来るようにって華琳様から伝令なの! あとは隊長たちだけ!」

 聞くや否や、天一刀は駆け出した。もちろん、程cを抱えていくことも忘れない。曹操が緊急の軍義を開くとき、それは大抵のっぴきならない事態に直面したことを意味している。そして五胡の動きと劉備からの応援要請を照らし合わせれば自ずと答えは見えてくる。

「華琳、すまん! 遅れた!」

 玉座の間ではすでに召集のかけられた将たちが揃っていた。しかしたった一人、張遼の姿だけが見えない。不思議に思いながらも程c、于禁の二人と共にその輪に加わった。うっかり双戦斧も持ってきてしまったが別段気にすることでもない。

 注意を払うべきは軍義の内容である。

「状況は芳しくありません」

 まず郭嘉が一歩前に進み出て、戦況の事細かな説明を始めた。

 伝令の兵から伝え聞くところ、蜀軍と五胡軍の兵力差は十倍以上。地の利と人の和を併せ持つ劉備の軍は諸葛亮と鳳統の奇策や関羽、張飛ら武将の獅子奮迅の活躍によって小康状態を引き出しているという。

 対する五胡は物量にものを言わせた突撃戦法で蜀の防衛線を圧迫、一転突破を行なった。絶えず攻められ続ければ如何に強固な守りもいつか突き崩されることは必定であり、すでに蜀から砦の一つを奪取してそこを拠点に戦力を集結させている。

「即刻増援を送り、これに対処すべきかと」

「風も稟ちゃんと同じ意見なのです。全軍を動かすわけには行かずとも、押し返さなければ敵はどこまで押し入ってきますから」

 軍師二人の意見に反対する将は居なかった。自分達の国に土足で上がりこみ、好き放題暴れている盗っ人を成敗せずして何とするか。

 しかし敵は百万の軍勢である。途方もない規模の相手をどのように凌ぐか、こればかりは実地に赴かねば判断のしようもない。どれほど優れた将兵も圧倒的物量の前に屈することも少なくない。まして五胡の軍は精鋭ぞろい。質と量を兼ね備えた強敵なのだ。

「敵がどれほど強大であれ、速やかにこれを鎮圧せねば国家の存亡に関わる」

 意見が出尽くしたところで曹操が口を開いた。迷いも恐れも感じさせない、覇王の口調で高らかに宣言する。

「魏は蜀と連携し、速やかに五胡を排除する! 秋蘭は稟と共に戦力を編成し、三日以内に出立!」

「「御意!」」

「それからカズト……いえ、天一刀」

 いきなり指名を受け、天一刀が慌てて一歩前に出る。

「すでに霞が出陣の準備を進め、明朝城を出るわ。貴方はそれに同行し先鋒として武功を挙げよ」

「っ……!」

 天一刀は即座に曹操の真意を悟った。

 これは彼女の課した試練だ。この戦いにおいて武将として才覚を発揮できなければ切り捨てるつもりなのだ、曹操は。最悪、無能者として城から追い出されることも覚悟しなければならない。今の互いの立場を考えればありえない話ではなかった。

 今の彼女は、名実共に乱世を制した覇王なのだ。

「分かった。この双斧と華琳に誓って必ず」

 まっすぐに曹操を見据え、双戦斧を高々と掲げて答える。

 その双眸に宿る決意を見て曹操は満足気に頷いた。

 

 

 

 

 

 出陣の準備とは色々と大変なのである。所持品を整理して鞄に詰めてさあ出発、とはいかないのだ。増援としては規模の小さい五百人の部隊でも確認する項目は十や二十ではない。さらに今回は迅速な行軍が求められるため、進軍経路の選定も慎重を期さねばならなかった。半刻……いや一分の遅れが勝敗を決するほど事態は緊迫している。

 張遼と共に一通りの作業を終え(天一刀が彼女と合流した時点で半分ほど終わってしまっていたが)、空かせた腹に何か入れようと厨房を訪ねた二人であった。

「おこんばんわー、誰かおるんかー?…………って、流流っちやん」

「霞さん、ちょうどよかったです。今からお部屋を訪ねようかと思ってて」

 蝋燭の光があると思って覗いてみれば、出てきたのは典韋と夏侯淵だった。揃って手に皿を載せた盆を持っているが、盛られている料理の量は半端ではない。

「なんだ二人とも、こんな時間に料理か?」

「先陣を堂々と賜った天一刀に一つ振る舞おうと思ってな。あの口上は中々感じ入るものがあったぞ?」

 言いつつ夏侯淵は持っていた盆を近くのテーブルに置き、燭台に火を灯した。夜闇に浮かび上がったのは山盛りの肉まんだ。典韋が肉まんを覆っていた掛け布を取るたびに、ホクホクと湯気が立ち昇る。

「蒸かしたてですよ。兄様たちがこちらに来てくれたので助かりました」

「おー! うまそうやんかー! いただきまっふふぁぐあぐ……」

 早速と肉まんを手にとって頬張る張遼の目が、一口飲み込んだだけで大きく見開かれた。

「旨い辛い! って中身、麻婆豆腐やないかー! これは斬新や、いけるでー」

「うん。粗挽きの挽肉にとろみの強い餡がまた……豆腐も一度炒めて焼色をつけてあるのかな? 香ばしくて歯ごたえがある」

 絶賛する張遼と天一刀に頬を緩ませて典韋は別の皿を勧める。典韋自身は決して言わないが、この麻婆まんは彼女の創作料理だった。

「ほなこっちはー……はぐっ、あむはむうむっんん? 何やら溢れる旨みがたまらんわー。ウチ、二人の料理食うたらもうシアワセやわ、極楽やわー」

 何処からともなく降り注ぐ眩い光の中に己が身を委ね、恍惚とした表情で天へ上っていく張遼(イメージ)。それもつかの間、「もう、一生飲み専食い専でええもん! むしろ二人に餌付けされたいわー!」と開き直ってさらに口の中へ謎の肉まんと麻婆まんを放り込み始めた。

「んー……これ椎茸かな、筍も入ってるね。挽肉みたいになってるのは魚肉っぽいけど」

「概ね当たりだ。木耳、椎茸、筍を刻み、それを海老と蟹のほぐした身を合わせて練り上げた。とはいえ、さすがに隠し味までは分からなかったろう……これだ」

 そう言って夏侯淵が取り出したのは酒の瓶だった。

「なるほどね。あっさりしてるのにグッと旨みが出るわけだ」

「景気付けになって何より。残りは包んで置いておくから、出立前に取りに来い」

「うん。ありがとう、秋蘭。それに流流も」

 海鮮酒まんを喉に詰まらせ、むうむう唸っている張遼の背中を擦っていた典韋もにこりと微笑んだ。

「兄様、ちゃんと帰ってきてくださいね? どんな立場になっても、兄様の帰る場所は此処なんですから」

「もちろん。皆のためにも、必ず生きて帰るさ」

 目を潤ませて見つめ上げる典韋の頬に天一刀が軽く口付けた。横から歩み寄る秋蘭は抱き寄せて典韋と同じように頬へキスをする。

「えへへ……」

「ふっ。相変わらずで安心したぞ、カズト」

 桃色な空気の後ろで、一人張遼だけが窒息死の危機に直面していたが誰も気付いてはいなかった。

「ウ、ウチ……結局、こんな、役回り、なん、かい……」

 

 

 そうして張遼に何とか海鮮酒まんを飲み込ませ、一段落着いたところで天一刀は部屋に戻った。明日は日の出と同時に城を出るのだから早めに休んで起きたかったのだ。

 しかし、いざ部屋に戻ってみれば戸の隙間から光が漏れている。また誰か入り込んだのか(自室に潜入経路が設けられていることは半ば諦める形で承諾した)と思って部屋に踏み入ってみると、仁王立ちの曹操が無言で出迎えた。

今日の軍義において窮地の蜀へ増援を送ることが正式に決定し、その先鋒として天一刀を指名したのは彼女だ。恐らくはそれ絡みの話に違いない。

 そんな彼の胸中を知ってか知らずか、曹操は柔らかな物腰で寝台に腰掛けた。

「華琳?」

 呼びかけられても曹操は何も喋ろうとはしない。ただ、天一刀を見つめる瞳だけが僅かに揺れていた。

「華琳……となり、座るよ」

 一応断りだけ入れて、けれど答えは聞かずに曹操の隣へ腰を降ろす。素早く廻した片腕が彼女の肩を抱き、まるで雲を撫でるような軽さでその体を胸元へ手繰り寄せた。

「そんな泣きそうな顔、するなよ」

「うるさい、泣いてないわよ」

 天一刀の胸に顔を埋めて曹操は上ずった声で答えた。

 泣いている、間違いなく。

「昔なら……」

 しばらくの沈黙の後、落ち着いたのか曹操はぽつりぽつりと喋り始めた。

「貴方と別れる前なら、特に不安にも感じなかったでしょうけど」

 覇王たる曹操は、決して私情だけでは動かない。例え望まなくとも、頂点に立つ者として判断を下さなければならない……今日はまさにそういう日であった。

 能力を疑われている将が居て、その実力を発揮できる又とない機会が到来した。三国を平定した今、万人を唸らせる武功を立てられる戦は少ない。天より使わされし武将という確固たる地位を築くには、これが最初で最後の好機だった。

 張遼もその辺りを分かっていたからこそ、曹操へ暗に天一刀の同行を求めたのだ。

「失って初めて分かることもあるのよ、カズト」

 行かないで、とは言えない。

 行け、と言ったのは自分なのだから。

「生きて帰ってきなさい、私の……私だけのカズト」

 二人はそのまま抱き合い縺れ合いながら寝台へと倒れ落ちる。激しく求め合うのではなく、寄り添い夜を明かすためだけに。

 

 

 

 


あとがき

 

夏侯惇・夏侯淵・典韋「死ね、外道っ!」

 

ゆきっぷう「ちょ、ま、いきなり!? 何の脈絡もなく!? あぎゃあああああああああっ!?」

 

 

郭嘉「『真(チェンジ!)恋姫無双 孟徳秘龍伝』をお読みいただき誠にありがとうございます。ようやく私と風も出番が廻って来たこともあり……」

 

程c「………………ぐぅ」

 

郭嘉「風、起きなさい。あの三人が馬鹿を取り押さえて細切れ肉にしている間にあとがきを完了させるのです」

 

宝慧「ようよう、出番の割には絡みが少ねえとは思わねえのかい?」

 

郭嘉「……それについては要請を出しておきましょう」

 

程c「おお、それはよかった。ところで稟ちゃん? 今回は大事な報告があるんですよね」

 

郭嘉「そうでした。実は風の頭の人形『宝ケイ』ですが、本来ケイは「言」に「慧」と表記されます。しかしこの字はゆきっぷうのパソコンはおろか、手持ちの漢和辞典にも載っていないという、常用外の域を超えた字でありました」

 

宝慧「つーわけだからよ。「言」無しの『宝慧』って書くことにしたのだぜ。もしも出し方知ってるなら連絡をおくれよ」

 

郭嘉「決めたのはゆきっぷうでしょう。それからそんな物言いで頼みごとなど失礼ではないですか」

 

程c「……………………ぐぅ」

 

郭嘉「起きなさいっ!」

 

張角・張宝『また次回会おうねー!』

 

張梁「私たち、当分出番ないけど」

 

張角・張宝『あああっ!?』

 

 

 

以下、捏造設定

 

許緒(真名・季衣)

 魏の武将の一人。「真・恋姫†無双」本編では序盤から登場し、盗賊に困っていた自分の村を救ってくれた曹操に心酔して参戦する。大食漢で行軍中の糧食が物凄い勢いで減っていたら彼女の仕業と見て間違いない。大飯喰らいならば夏侯惇も同じだが、その彼女を上回る胃袋の持ち主。しかし蓄えられたエネルギーを爆発させることで得られる怪力は魏随一という。

 ホンゴウカズトの消失後、自棄食いに走ったため魏の食糧事情が危機に瀕したと言う。当時は米を日にトン単位で消費するほどだったが、その体型は一度も崩れていない。

 魏のロリっ子その壱。また髪を下ろすと印象が変わることからも隠れた魅力の持ち主でもある。その幼さゆえに曹操も手を出すのを躊躇っていたが、「兄ちゃん」ことホンゴウカズトに襲われ(?)後述の典韋ともども大人の女に大変身してしまった。『種馬=性犯罪者』の定義を確立させた偉人の一人である。

 後に夏侯惇が許著らに手を出したカズトを斬首せんとする一幕には、ゆきっぷうも心の底から「カズト、死ねぇぇぇぇぇっ!」と叫んだとか。

 

典韋(真名・流流)

 魏の武将の一人。「真・恋姫†無双」本編では季衣の親友として登場し、彼女の説得(?)によって武将兼料理人として参戦する。料理人としての腕前は食通の曹操を唸らせるほどの超一流。曹操自作の料理を批評できるのは魏に典韋のみである。また許緒に並び立つほどの剛力の持ち主。

 ホンゴウカズトの消失後、悲しみにくれて厨房にこもりっきりになってしまった。先述の許緒が自棄食いに走ったのもブレーキ役の典韋が居なかったから。

 魏のロリっ子その弐。恐らく本作では数少ないスパッツ娘で、それだけでも(一部の)男を熱狂させるというのに純な性格と幼い体型が相まって凄まじいパワーを発揮する。リビドー的に。許緒と共にカズトに抱かれたが、それを知った曹操は「私がゆっくりと(以下自粛)」と落胆したという。言うまでもなく、ゆきっぷうもこの世の不条理に落胆した。

 

郭嘉(真名・稟)

 魏の軍師の一人。「真・恋姫†無双」において中盤から参戦。地方の砦で相方の程cと共に指揮を預かっていたが、襲撃してきた袁紹軍を少数の兵で見事凌いだことから曹操の目に留まって本城へ召喚される。以後、魏の重要な頭脳として活躍した。

 曹操に憧れを抱いていた郭嘉だったが、念願かなって本城の軍師となると重大な問題が発生した。天邪鬼な性格の持ち主である郭嘉は憧れのあまり曹操に対して反発的な態度をとり、真名を呼ぼうとすると鼻血を噴くという凄惨たる有様。閨に呼ばれれば触られただけで寝所が(鼻)血の海に沈むほど。

 この事態に曹操はカズトに郭嘉を預け、「女として磨きあげろ、エロティックに」と命じた。カズトもこの無茶振りに応えて見事郭嘉を鍛え上げるが、曹操を前にした時の彼女の鼻血癖はとうとう直らなかった。曹操はカズトが自分だけ美味しい想いをしたことに腹を立て、彼を斬首しようとした一幕も(もちろん、ゆきっぷうは「カズト、死ねぇぇぇぇぇっ!」と叫んでいる)。孟徳秘龍伝では辛うじて公務に差し支えないところで踏みとどまっているらしい。

 スレンダーなキャリアウーマンと評すべき美女。さらに眼鏡属性も付加されて(一部の)男達を沸かせた。「真・恋姫†無双」では比率の高いニーソではなく、あえてガーターベルトを着用する数少ないヒロイン。

 カズトの死後、戦友を失った彼女の心は埋められない空隙に悩まされることとなる。どこぞのツン100%軍師ではないが、あの男ホント死ねばいいのに。

 

程c(真名・風)

 魏の軍師の一人。「真・恋姫†無双」において中盤から参戦、郭嘉と共に曹操のもとで軍師となる。「英雄とは太陽。その日輪の力を借りて今必殺のサンアタック」……とは言っていないが英雄という日輪をその手で支えるというのが彼女の理想。乱世を制する覇王・曹操は程cにとって日輪だったのである。

 ところ構わず居眠りをする癖があるが、きちんと話は聞いているうえに自分の意見を言える、ある意味天才軍師。魏に参戦する以前、趙子龍と郭嘉の三人で各地を旅していたころから居眠りする癖はあったようだ。その頃に知り合った名医から、郭嘉の鼻血を止めるためのツボを教わったらしい。

 ちなみに頭の上に人形の「宝慧」を乗せており、腹話術で一人二役を演じている。ちなみに「慧」の字は本来「言」がつくのだが、漢和辞典にすら載っていない字だったので敢えてこちらの表記にしている。

 魏のロリっ子その参。蜀のはわわ・あわわ両軍師と並び立つほどのロリっ子軍師だが、その方面(主に○○で×××な)の知識は二人よりも上。

 カズトの死後、職務をほったらかして猫と戯れるわ暇を貰って隠居するわやりたい放題だった。半年ほどで吹っ切れたのか、再び軍に戻るが頭上の宝慧のカラーリングが紅くなっていたとか。夢のお告げらしい。あの性犯罪者め、地獄に落ちろ。




はわわっ、ってな感じで劉備たちがピンチな状況。
美姫 「一刀が武功を上げるにはチャンスとも言えるけれどね」
次回は戦闘になるのかな。それとも、まだかな。
美姫 「とっても楽しみね」
うんうん。そして、楽しみと言えば人物紹介も楽しみの一つなんだけれど……。
美姫 「今回で殆どの魏のキャラが出たわね」
後数人……というか、軍師一人とアイドル三姉妹ぐらいか。
この方たちの人物紹介もあるのか、ないのか。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
待ってます。



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