セルダール軍第七駐屯基地、第二リニア・カタパルト。

 

 

 

 空へと伸びる巨大な鋼のレール。この大型の輸送艦を一瞬の内に惑星の重力圏から離脱させる超加速モジュールは、セルダール本星に百以上ある軍施設の中でも第七駐屯基地を含めて十基しか存在しない貴重なものだ。かつては各基地に最低でも一基は設置されていた設備だが、呪怨戦争の際にマジーク軍の攻撃によってその殆どは失われてしまった。

 そのカタパルトのスターターユニットへ今まさにEM輸送専用のシャトルがドッキングしたところだ。時刻はもう日付が変わる寸前で、しかし山積みのコンテナの数を見るとしばらく積み込み作業が続きそうである。しかも全てギャラクシーMk‐Uの予備パーツらしい。

 そんな光景を背にカズヤはシャトルに乗り込むため、一人重い足取りでタラップを上っていた。アンジーはアンスとどこかに行ってしまい、教官であるフォルテも後始末やら出立の手続きやらで動き回っていて一度も会えず今に至る。彼のいるキャビンには負傷兵の入った生命維持カプセルが一基。中で眠っているのは金髪の可愛らしい少女だ。目立った外傷はないがひどく消耗している様子で、カプセルを運び込んだ衛生兵の話ではフォルテの部下なのでやむを得ず連れていくことになったらしい。

 ただ、少年の歩みが重たげなのは別に理由があった。

「ベングリンさん、僕は」

 ベングリン、ケドゥック、ビハマ、ジェドロ。ほんの数日とはいえカズヤに実戦のイロハを叩き込んだ兄貴分たちである基地のEM小隊は、市街地のテロリストとの戦闘で全員戦死した。

 いや、正確には未確認EMによってテロリスト諸共に焼き払われた、というのが事実だ。ベングリンたちのヘクトールUから回収されたミッションレコーダーによれば、近接格闘戦型のEMが装備していた巨大なビームセイバーによって市街地ごと横一文字に薙ぎ払われたらしい。少なくともその斬撃によって都市コーデルト全体の60〜70%を一瞬の内に焼き尽くされ、基地の防衛戦を終えたカズヤは変わり果てた街に両膝を着いた。

「僕は、護れなかった……」

 確かにカズヤとMk‐Uの活躍で基地は壊滅の危機を脱した。もちろん彼の力だけではないが、それでも少年の果たした功績は大きい。しかしそれが彼の限界であり、結果として市街地に居たベングリンたちを見殺しにする格好になってしまった。

 もっと速く発進していれば。

 もっと速く敵を撃退していれば。

 ベングリンたちを助けられたかもしれない。全員は無理かもしれないが一人でも二人でも生きて連れ帰れたかもしれない。

「うっ、うううっ……」

 己の無力さに泣き崩れる少年の肩を叩くべき大人たちは、しかしその場には居なかった。

 

第二次銀河天使大戦

Love Destroy

第一章 三節『始動』

 

 

 

 

「報告を聞こう」

 厳かに告げるメジェストゥ将軍が居るのはセルダール軍の総司令室だ。クーデターの宣言から三日が経ち、セルダール政府の全権・全機能をメジェストゥ率いるクーデター軍が掌握した今、軍の司令部が国家の中枢であると言っても過言ではない。

 そんな場所にも関わらず、メジェストゥの表情は非常に険しく不機嫌だった。クーデターによる体制の切り替えはスムーズに進んでいた。事前の徹底した根回しやメジェストゥらの人望もあって、直接的な戦闘が発生することは殆ど無かった。順風満帆の今において何が彼女の機嫌を損ねたのか。

 問われた蒼髪の男はため息混じりに答えを返した。

Mk‐U奪回任務のため、第七駐屯基地の制圧に当たっていた我が隊はMk‐U含む基地の防衛戦力の激しい抵抗を受けてこれに失敗。また退路を確保するため市街地に潜伏していた支援チームは、未確認EMの攻撃によって全滅。コーデルト市街地も壊滅状態であります。将軍閣下」

「生存者は?」

「現場からは自分と、ジョン・マクファーレン少尉の二名であります。他の後方要員10名すべて、およびEMパイロット3名のうち2名は全員死亡が確認されております。残りの一人は捕虜となったと思われます」

「部隊はほぼ全滅と言うわけだな、アヴァン・ルース」

 つまり15人居た部隊員のうち12人が戦死したことになる。これは現場指揮官の無能を問われて当然の結果だった。アヴァンのすぐ隣で直立していたもう一人の生還者……ジョン・マクファーレン少尉は悔しさからだろう、俯いた目じりには涙が滲んでいた。

「ですから申し上げたではありませんか、メジェストゥ閣下! こんな何処の生まれとも分からない蒼髪風情に作戦を任せるべきではないのです!」

 そんなアヴァンとジョンの横から声を張り上げたのは銀髪の若い将校だった。階級章を見ると『中佐』であることは分かるが、見た目20代の青年が就ける階級ではない。

「やはり瑣末な任務であってもやはり私のような由緒正しきセルダール軍人が事に当たるべきです。次の作戦には是非、このレガード・マクファーレンを」

 そう言ってうやうやしく頭を下げるレガード中佐をメジェストゥは一瞥し、「追って詳細を伝える」として退室を促した。レガードとしてはより明確な回答が欲しかったのだろう。不満げな表情を残しながら司令室を後にした。

 分厚い扉が閉まり、三人の残った部屋がしんと静まり返る。

「出来の悪い息子を持つのはこういうことか」

 やがて口を開いたメジェストゥが嘆息すると同意するようにアヴァンも肩をすくめた。

 姓名の示すとおり、レガートはジョンの実兄に当たる。歳が十近く離れている関係で将校と尉官という出世の開きが出来てしまっているが。

「さて、アヴァン・ルース。本題に移ろうか」

「了解だ、閣下」

 仕切りなおすメジェストゥとアヴァンにジョンが首をかしげた。任務の報告ならば今しがた終わったばかりではないか。

 訝しがるジョンの肩を叩いたのはアヴァンだった。

「普段なら俺と閣下だけのブリーフィングなんだが、状況が変わった。これからは君も、我々の『本来の目的』を達成するための任務に従事してもらう」

 言われるままに総司令のデスクに向かい合う形で椅子に腰掛けさせられる。アヴァンもジョンの隣の座ると、メジェストゥが真剣な顔で切り出した。

「今回の一件で状況は極めて芳しくないことが分かったが、まずは……少尉、よく生き残ってくれた。礼を言う」

「いいいい、いえ、もったいないお言葉ですっ」

 英雄とも呼ばれた歴戦の女将軍に頭を下げられて、ジョンはあたふたと答えるだけで精一杯だった。

 今回の作戦は本来、メジェストゥのクーデターで混乱した第七駐屯基地にアヴァン率いる工作部隊が潜入、基地を中枢から制圧するものだった。ジョンは正規軍のパイロットだったが特別編成として工作部隊のメンバーとして作戦に参加しており、基地から程近い森林地帯で機を窺っていたのだが……待機中のところを所属不明のアンドロイド部隊に襲撃され、結果、先の報告の通り部隊は壊滅してしまった。

「礼を言いたいのは俺も同じさ、ジョン。アンドロイドの部隊に奇襲された状況下で、ランデブーポイントまでスムーズに後退できたのは間違いなく君の能力だ」

 重ねて言うアヴァンに肩を叩かれ、ジョンはすっかり萎縮してしまった。

 実際、アヴァン指揮下の兵士たちはこのアンドロイド部隊に応戦したが、如何せん相手は生身の人間と違い極めてタフだった。腕が一本千切れたぐらいで怯んだりはしない。ただ指定されたターゲットを殲滅するまで動き続ける殺人マシンなのだ。そして使用する火器も人間用のものより強力に作られている。反動などの制限をアンドロイドは気にしなくてよいからである。

 従ってアヴァンたちが対峙した敵は極めて強力であり、奇襲と言うこともあって瞬く間に彼らは劣勢に陥った。その中でジョンはアヴァンと生き残った隊員数名に作戦の中断と撤退を提案し、アヴァンはそれを承認した。この時点で第七駐屯基地を制圧するために必要な人員も装備も失われてしまっていたからだが、何よりこんなおっかない敵と戦いながら基地を制圧できるはずがなかった、というのが本当のところだ。

 そしてアヴァンがジョンを賞賛した最大の理由は、敵部隊の追跡を振り切るために森林地帯を当てもなく走り回った状態から的確にランデブーポイントまでの最短ルートを割り出したことにある。追跡を振り切るまでに他の隊員は全滅し、生き残ったのはアヴァンとジョンの二人。しかも装備の殆ど……現在位置を確認・針路誘導するためのナビ装置も失った状態から、近辺の地形も踏まえてのルートの割り出しはそうそう出来るものではない。ジョンは周辺の地図を作戦前に暗記し、それを頼りに回収部隊と合流する海岸まで辿り着いたというのだから彼の記憶力の正確さは非常に稀有なものだと言えるだろう。

「払った犠牲は大きかったが、いくつかの手掛かりを拾うことは出来た。まずこちらを襲ったアンドロイドだが、パーツを一部回収したのでシャンメリー博士に解析してもらっている。近日中には結果が出るだろう」

EDEN製、ですかね」

「仮にEDEN側の代物だとしても、使っているのもEDEN側の人間だとは限らないさ。とにかく博士の分析で連中の正体が一つでも分かればいいんだがな」

 アヴァンのその言葉にメジェストゥが眉をひそめた。

「一つ、だと?」

「コーデルトには俺達と第七駐屯基地の戦力以外に三つの勢力が居たことが分かっている。一つはコーデルト市街地を占拠したテロリスト。一つは俺達の部隊を襲撃したアンドロイド兵。そしてコーデルトをテロリスト諸共焼け野原にした所属不明EMの三つ。いずれも『どこの誰の差し金なのか』さっぱり見当が付かん」

 アンドロイド部隊については解析待ちだが、テロリストは遺体はおろか遺留品も含めて全て灰になっていて追跡調査は不可能に等しい。所属不明のEMも同様で、生存者の『単独行動だった』『巨大な剣のようなものを持っていた』といったあやふやな証言ばかりで正体を突き止めるには至っていない。

「まあ少なくとも、三つのうちの一つは例の連中が絡んでるだろうがな」

 やれやれ、と肩をすくめるアヴァンの隣で、ジョンはようやく事態の複雑さを理解していた。メジェストゥたちの本当の狙いはEDENと癒着した企業による実効支配の阻止でも、セルダール内外に潜む反乱分子の鎮圧でもない。もっと巨大な何かとの対峙を想定した――――

 思考に没頭するジョンを遮ったのはメジェストゥのデスクから鳴った呼び出し音だった。恐らく重要部署からの緊急報告だったのだろう。手元のパネルに表示された報告メールの文面に目を落としたメジェストゥの表情が冷徹な軍人のそれへ切り替わる。

「何処からの連絡で?」

「本星の防衛ラインを構築中のベズボルンからだ。封鎖前の航路を使って民間シャトルが一機、暗礁空域に飛び込んでいったそうだ。今から十五分前らしい」

 現在、セルダール本星への連絡便はメジェストゥの命令ですべて運行休止とし、出入りできるのは政府の管理する物資輸送艇か軍事関係の便のみとなっている。不穏分子の逃亡、あるいは侵入への予防策だ。地上からの民間シャトルの発着はすでに止まっていたはずだが、件のシャトルはどこからか発進し、かつベズボルン率いる宇宙艦隊が封鎖する前の航路を利用して暗礁空域へ逃げ込んだというのだ。

「奴らの尻尾をつかめるかもしれん。アヴァンは隊を再編した上でベズボルン艦隊に合流、シャトルを追撃せよ」

 メジェストゥの命令に無言の敬礼で答えたアヴァンはすぐさま立ち上がった。

「ジョン・マクファーレン少尉は現時刻を以って私の隊へ再編入される。貴官は直ちに宇宙遠征用装備一式を携行して第13ブリーフィングルームへ出頭せよ」

 部隊長であるアヴァンの発令にジョンはすぐさま直立不動の姿勢をとった。

「ハッ!」

 踵を返して走っていくアヴァンとジョンの背中を見送ると、メジェストゥはデスクの隅で倒してあったフォトフレームを静かに起こした。

 映っているのはまだ不死身だの英雄だのと揶揄される前の彼女と、可愛らしい少年のツーショットだ。恐らくどこかの公園で撮影したものだろう。

 瞼を閉じたメジェストゥに、戦争など無縁であった頃の穏やかな日々が去来する。そして最後に残るのは耐え難い悲しみと罪悪感のみだ。

(子供を戦場に駆り立てる。私は最低の親だな)

 

 

 

 

 

 

 桜坂柳也は不満だった。

 クーデター軍(正確にはメジェストゥ将軍の直轄軍であり、セルダール正規軍と同等の扱いになっている)に志願した彼だったが、総司令部に到着して早々に待機命令という形でブリーフィングルームに放り込まれてしまった……からではない。

 その軟禁状態でかれこれ半日放置されている……からでもない。

 つまるところ、

「妙齢の美女と噂される! 妙齢の美女と噂されるッ! 妙齢の美女と噂されるッッッ! メジェストゥ将軍閣下に一秒でも早くお会いしたいというのに、ナニユエこんな所で足止めを食わねばならんのだ!?」

 実に欲望に忠実なだけだった。

 監視役の兵士から聞き出した情報によればメジェストゥは今年で齢四十過ぎという。しかも過去の大戦で夫と息子を亡くした、未亡人である。柳也にとってはストライクゾーンど真ん中だった。

「ヌオオオオオオオオオオッッッ!!! おのれ、おのれアヴァン・ルース! 俺の道を阻む彼奴めの首をこの同田貫が欲しがっておるわァァァァあがッ!?」

 押さえきれない怒りと欲望のあまり、自慢の愛刀を抜いて吼える柳也の後頭部を蒼い刀身のバスタード・ソードが打ち据えた。彼の連れであるアイリスの仕業だ。青髪の小柄な少女は軽々と重厚な造りの剣を鞘に収め、呆れた様子でため息をついた。

「痛いじゃないか、アイリス」

「黙れ。あのアヴァンとやらは一時的とはいえ私たちの上官となる。この世界での後ろ盾が他にない以上、不用意な発言は避けるべきだ」

 例えブリーフィングルームの側を通る人間が居なくとも、部屋の外では監視の兵が立っている。不穏当な言葉を聞かれるのは自分たちの立場を危うくしかねない。タダでさえ自分たちは余所者なのだ。余計な禍根は残してはならなかった。

 不意にブリーフィングルームの扉が開いた。外の兵士が入ってくるようだ。

 「まさかの制裁か?」と柳也たちが身構える。アヴァンと言う男がそこまで人望があるようには見えなかったが……

「――――――――あれ?」

 入ってきたのは見たところまだ歳若い少年兵だった。

「ここはこれからアヴァン隊のブリーフィングに使うんですが、お二人はどちらの所属ですか?」

 特に柳也の顔が悪人面だったからだろう。少年は一歩下がって警戒しながら二人に問いかける。その態度が、柳也の勘気を誘った。

「ああん? 俺たちゃ泣く子も黙るべぼっ!?」

「私はアイリス、こいつは桜坂柳也。我々は君の言うアヴァンにスカウトされてここに連れて来られた」

 メンチを切ろうとした柳也の右足の小指を強かに踏みつけながらアイリスが的確に回答する。ある意味で人体最大の急所に大打撃を受けた柳也はその場で大粒の涙を流しながらうずくまるしかなかった。

「あ、あの……彼、泣いてますよ?」

「気遣いは無用だ。それより、アヴァン隊のブリーフィングと言ったな? 出撃か?」

「そうです。でも詳しいことは隊長に聞いてもらえればと、はい」

 答えた少年兵はデスクの上に背負っていたバックパックを降ろした。バックパックは見たところ、外側はかなり分厚い造りになっている。何らかの耐圧構造を持った軍用の品のようだ。

 話が一段落したところで再びブリーフィングルームの扉が開き、二人の男がいがみ合いながら入ってきた。片方は蒼い長髪の軽い感じの男で、もう一人は黒い短髪の三白眼で目付きが非常に鋭い男だ。そんなアンバランスな二人がやれ「どうして貴様はそう無計画なのだ」だの、やれ「お前だって行き当たりばったりだろうが」だのと、なんとも五十歩百歩の言い争いを繰り広げている。

 入室してなお五分もの間言い合いは続き、ようやく回りの視線に気付いた二人は、

「さあ闇舞北斗、隊員諸君を誘導してくれたまへ」

「さあ皆、着席してくれー。アヴァン隊長殿からこれからの作戦行動について説明があるぞー」

何事もなかったかのようにミーティングを開始した。

「さて殆ど初顔合わせの面子だから俺から順々に紹介しておこう。まず俺が隊長のアヴァン・ルース。階級は少佐だ。さっき俺と言い合いしていたのが副隊長兼突撃隊長の闇舞北斗大尉。んでそっちの子犬系が今回正規軍から正式に出向になったジョン・マクファーレン少尉」

「君の状況判断能力の高さは将軍から聞いている。期待しているぞ、少尉」

「はいっ! よろしくお願いします!」

 闇舞北斗から言葉を掛けられてジョンが起立して答礼する。そんなやり取りを横目で見ながら、どう見てもこの北斗という男の方が隊長向きに見えるのだが、と柳也は内心疑念を抱いていた。

「そして其処の二人が新人隊員の桜坂柳也三等兵とアイリス・ブルースピリット少尉だ」

「ちょっと待てぇっ! 新兵の俺が三等兵なのは理解できるが何故アイリスが尉官待遇なんだ!?」

 唐突に発表された階級の落差に柳也が吼えた。

「まああくまで階級は対外的な、あくまで形式上のものだから隊の中では無礼講だ。気にしないでくれ」

「そりゃ逆に言えば対外的には上官の命令に従えってことだろうが!」

「二人とも白兵戦には自信があるそうだからな。期待してるぞ」

 アヴァンに話を締めくくられてしまっては柳也もこれ以上強く出るわけには行かなかった。自分たちの目的は軍での出世以上のところにあるのだ。ここで躓いているわけにいかない。

 反論や質疑が出ないことを確認してからアヴァンが改めて口を開いた。

「と言うわけで俺たちはこれから宇宙に上がります」

「「「はぁっ!?」」」

 あまりに突拍子のない内容に北斗と柳也、そしてアイリスが目を見開いた。事前に話を聞いていたジョンだけが冷静に言葉の続きを待っている。

「先日のコーデルト壊滅に関与したと思われる人物、あるいは関連する物品を乗せたシャトルが、軍の封鎖を突破して本星付近の暗礁空域に逃亡した、とベズボルン宇宙艦隊司令から連絡がきた。我々の任務はメジェストゥ閣下の勅命によりこれの追撃を行い、最終的には犯人一味を総司令部に連行することにある」

 コーデルトの名を聞いて柳也の顔が強張った。

 目の前で多くの命が失われ、都市が一瞬の内に廃墟と化したあの惨劇の中で生き残った自分に出来ることは仇討ちぐらいしかないだろう。時代錯誤も甚だしいが失われた者に報いる術を他に見出せないのも事実だ。何より自分の掘っ立て小屋と熟女白書計八巻を灰にされた恨みもある。

 柳也にこの任務に参加しない理由はなかった。

 対して疑問を呈したのは北斗であった。

「このタイミングでの行動、あからさま過ぎんか?」

「ほとぼりが冷めるまで待っていては航路を全て封鎖されてしまうし、セルダール領内に残って見つからずにすむ保証もない。逆に今ならセルダールの正規軍は殆ど動けない。特に宇宙艦隊は本星の防衛網の構築で手一杯だ。怪しいシャトル一機のために割ける戦力は無いよ。事実、俺たちが借り出されることになったのは、身動きの取れんベズボルンからの要請があったからに他ならない」

 ふむ、と納得した様子で北斗が頷く。

 続いて柳也が訪ねた。

「宇宙に上がると言ったが、具体的にはどう動くんだ?」

「軌道上のベズボルン艦隊と一度合流し、EMと長距離移動用のカーゴシップを受領する。追撃はそれから。EMのパイロットは俺とジョンが担当、也とアイリスは北斗とブリッジ(艦橋)待機。状況に合わせて適宜行動してくれ」

 なるほど、と柳也は頷いた。

 宇宙空間での作戦行動には人型機動兵器『EM』を扱える人材が適任だ。翻って自分とアイリスには宇宙空間での活動経験はなく、特殊な装備であるEMを扱う技術もない。カーゴシップでの待機命令はごくごく自然なものだと言える。

 副隊長である北斗までも待機しているのは万が一の際における指揮系統を確保するためだろう。何かトラブルが起こった時に新兵二人だけでは的確な対処など出来るはずもない。

 とまあ柳也がそんな考えを巡らせている間に、今度はアイリスが質問するべく挙手していた。

「何かな、アイリス少尉」

「うむ。まず先刻から何度も出てきているEMとはいったいどういう物なのか? それから宇宙という場所で行動するにあたって何に気を付ければいいのか? いや、そもそも―――――宇宙とは?」

 アイリスが喋り終ってからきっかり三秒後、アイリス以外の全員がその場で盛大にズッコケ――――もとい転倒した。

 宇宙。

 この世界を構成する上で極めて重要かつ根源的な概念であり、しかし惑星間交流さえ日常の物となっているセルダールにおいて一般常識の範疇ともいえる概念である。そして一方で、いまだその全体像は解明しきれていない未知の領域でもある。

 つまり軍のブリーフィングの最中に投じられる類の質問ではなく、周囲の不審に繋がってしまう。

 だがアヴァンと北斗は何を思ったのだろうか、涙ぐんで頻りにアイリスの肩を叩いた。まるで不幸な境遇に生まれた子供をあやすかのようである。

「いいんだ。君は悪くない。時代が、いや俺たちが悪かったんだ……」

「そうだ。浅はかな大人たちのエゴこそが……」

 何とも意味深なつぶやき。二人の過去にいったい何があったというのか……

「ウグッ……ウッ、ウッ……アイリスさんも苦労なされていたんですね」

 そして何故かつられて泣き出すジョン・マクファーレン。

 三者三様の態度を見てきょとんと小首を傾げるアイリス。

 一同を見回した柳也は、ほとほと呆れるしかなかった。

 

 

 

 とりあえずアイリスの『ドキドキ! ワクワク♪ 宇宙初体験研修』は実地研修という形で後ほど行うことになり、一行はさっそく宇宙へ向かうべくあらかじめアヴァンが手配しておいた軍用シャトルに乗り込んだ。宇宙戦艦や大型の物資輸送艇は別として、人員輸送用のシャトルであればマスドライバーを使用せずとも重力圏からの離脱は十分可能だ。

 滑走路から飛び立ったシャトルはアヴァンの操縦の元、わずか数分でセルダールの重力を振り切って衛星軌道に到達した。これは別段アヴァンの操縦が優れているわけではなく、純粋にシャトルの性能によるところが大きい。

 スケジュールとしてはここから小一時間ほどでベズボルンの艦隊と合流できるだろう。操縦をオートに切り替えたアヴァンがシートに座ったまま全身で伸びをしていると、隣の副操縦席の北斗が渋面で呟いた。

「厄介な新人を拾ってきたものだな、アヴァン・ルース」

「柳也とアイリスのことか?」

「そうだ。頭数が必要なのは分かるが……」

 手元のディスプレイでキャビンの様子をうかがうと、無重力状態に大興奮中の柳也と、悪酔いしたのかグロッキーなアイリスの姿があった。

「アイツらの正体のことなら重々承知の上さ」

「ならばアヴァン……!」

「『神殺し』のお前が過敏に反応するのも、『連中』が危険極まりない集団だということも知っている。だからこそ対抗策として抱き込んでおきたい」

 そこまで聞いて北斗はふん、不機嫌そうに鼻を鳴らすとどこからか酒のボトルとグラスを取り出した。もちろん自分用であってアヴァンの分は用意されていない。グラスも一つだけだ。

「おい、ここで酒を飲むな」

「こうも雲行きが怪しいのでは景気付けに一杯やらんとやる気が起きん。ちなみに今飲んでいるコイツはセルダールの南半球では有名な酒蔵の品でな、こいつは蔵の新人が卒業試験代わりに毎年造っている。その新人もあの戦争で全員徴兵されて戦死したという痛ましい話があってな。それでも去年ついに待望の新人が蔵に来たとか何とかで……」

 どうやら艦隊に合流するまでの間、北斗の酒に関するうんちくを聞かされ続ける羽目になったらしい。アヴァンは深いため息をつく以外に出来ることはなかった。

 

 

 

 

 アイリスの看病が本人に頑なに断られる形でひと段落したジョンは、船体後部の貨物室で持ち込んだ装備の点検に勤しんでいた。点検といってもたかが歩兵五人分の装備などコンテナ一つあればお釣りがくる程度の量でしかない。そう考えていたジョンの眼前にはまず厳重に封印の施された、特殊装甲製の機密コンテナが鎮座していた。しかも同じものが三つ縦に並んでいる。

 一番手前のコンテナのラベルを見ると、『酒・開封スルベカラズ』と達筆に記されている。おそらく冗談だろう、とジョンは解釈した。

 二つ目のコンテナには『メロン・開けたらコロス』と汚い字で書きなぐられていた。これも冗談だろう、とジョンは解釈した。

 三つ目のコンテナには『隊長・副隊長専用兵装(開封厳禁)』ときちっとした書体で印字されていた。ジョンは何も考えないことにした。

「………………とりあえずここのコンテナは見なくていいや」

 どうやらこの三つの機密物資は隊長と副隊長が職権乱用で持ち込んだ代物らしい。ジョンは持ち前のスルースキルを発揮して、次の『一般装備品』のラベルが貼られたコンテナの蓋を開いた。

 中には人数分の宇宙服と予備の酸素ボンベ、宇宙空間でも使用可能なレーザー・アサルトカービンライフル、レーザー・ハンドガン、コンバットナイフ、手持ち式の防弾装甲(シールド)、予備の弾薬や携帯用の食料などが収められている。

「これでよし、っと」

 搬入リストと現物との照らし合わせを終えて一息つくと、室内のスピーカーから人工のアナウンス音声がドッキング準備に入ったことを知らせてきた。どうやら検品の間に艦隊と合流できたらしい。

 急いでジョンがキャビンに戻ると、これから受領するカーゴシップとの移動用チューブの接続が始まったところだった。チューブといっても幅2m高さ4mもあり、大人数の行き来にも対応できる設計になっている。ちなみに貨物室のコンテナはEMパイロットの訓練兵が操縦訓練がてら運んでくれることになった。

 そこから先の手続きはあっという間に片が付いた。カーゴシップのブリッジで制御キーを受け取り、納入された各種装備とEMの確認をすれば後は出航するだけになる。

 艦隊の補給班からの受領リストの最終チェックを終えてジョンはブリッジに戻った。こういった事務的な仕事は正規軍にいた頃から任されることが多かった彼だが、どうやらそれはここでも同じらしい。周りを見回してみても、アヴァン隊の中でこういう細かい作業に適性のある人間は彼以外にいないだろう。

 ブリッジでは北斗が艦隊司令であるベズボルンとモニター越しに会話をしていた。ベズボルンは齢60近いという話だが、その屈強な肉体と精悍な顔立ちから見た目まだ50代手前ほどにも感じられた。

「む? ジョン、戻ったか」

『此方も時間のようだ。ではな、闇舞……繰り返すが、ブラマンシュ財閥には気をつけてな』

「委細承知しました。少将閣下もご武運を」

『老い耄れにけったいな肩書を乗せるでないわ。第一、その仰々しい言葉づかいも貴公らしからぬぞ、破壊者め』

「ふっ……アンタだって似た者だろう、破城槌よ」

 互いに不敵に笑い合い、通信機のスイッチを切る。

 北斗がやれやれとシートに腰を下ろすとジョンが血相を変えて駆け寄ってきた。

「ベ、ベ、ベズボルン少将閣下とお知り合いなんですか!?」

「ん? ああ、去年の春先に非正規の作戦でちょっとな。それよりアヴァンはどうした? お前と一緒に格納庫に行ったはずだろう」

 興奮気味のジョンを窘めるように問い返すと、ジョンは我に返った様子だった。

「え、と……隊長は追加で搬入された小型戦闘艇のチェックでしばらくかかるそうなので、副隊長と艦を出航させろ、と」

「やれやれ、例のシャトルの足取りが途中で途絶えているのだがな……仕方ない。ジョン、隊長の命令通り発進させるぞ。針路はとりあえずシャトルを追う形にしよう」

「了解です」

 北斗の指示通り、ジョンはまずベズボルン艦隊から受け取った未確認シャトルの移動経路のデータをディスプレイに表示させた。シャトルはセルダール本星からまっすぐ暗礁宙域を目指して移動している。だがその先には何か特別な施設や、大規模な軍事拠点といった物は存在しない。あるとすればベズボルン艦隊が駐留するために仮設した補給基地が点在する程度だ。

 しかし観測データによればシャトルは無数の小惑星が漂うこのエリアで消息を絶っていた。墜落したか、あるいは(シャトルが敵と仮定した上で)仲間と合流したか。

「妙な話だ。暗礁宙域の周辺はベズボルン艦隊と彼らが設置した観測衛星が監視網を敷いている。シャトルの宙域侵入と監視網の完成はほぼ同時だ。宇宙艦クラスの物体が宙域を離脱するところをむざむざ見逃すとは思えん」

「じゃあ相手はまだあの中に潜んでいるってことですか?」

「それも相当巧妙にカモフラージュした上で、だ。―――――ジョン、暗礁宙域を超えた先に軍事拠点の類は無いんだったな?」

 観測データに目を通していた北斗が不意に視線を上げた。その三白眼に鋭い光が灯っていた。

「はい。身を隠せるような場所は何も」

「では暗礁宙域の中はどうだ?」

「中、ですか…………確かに記録では呪怨戦争開戦直後にマジーク軍に占拠されて放棄された大型コロニーがありますね。宇宙資源採掘用の拠点として30年前に建造されています。SZ4099……そのコロニーの名前です」

 行き先は決まった。戦火の陰で忘れ去られたその地に激戦の予感を覚えつつ、二人は艦の針路を其処へ定めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無重力という環境が人にもたらす影響は大きく、特に不慣れな人間の場合には多岐かつ顕著に表れるということをアヴァン・ルースは改めて学ぶことになった。

 具体例を挙げるなら、目の前の二人の男女がそうだ。

 その男は無重力という新しい刺激に対して、積極的に受け止めようと躍起になっていた。手をばたつかせたり、体をひねって回転してみたり、何が出来るのか、あるいは出来ないのか、一つ一つ確かめていた。しかしその様子を一言で表すなら『雪の中で駆け回る犬』だろう。

 それに対して女は完全に消耗し切っていた。無重力という不慣れな環境に置かれたことで心身ともにすっかり疲弊していた。休憩用のベンチの上で毛布にくるまって寝転がる姿は『こたつで丸くなる猫』さながらだ。

 そういった訳で仕事そっちのけの柳也とアイリスにアヴァンが近づいてきたのは、作業がほとんど終わってからだった。

「よう、隊長さん。悪いな、手伝えそうなことが何もなかったんで適当に暇潰させてもらった」

 軽く手を振り、しかし目を合わせようとはせずに柳也が言った。機械工学の専門知識を持たない柳也とアイリスにとって、その言葉は純粋に事実を述べたものだ。しかし柳也自身はそれ以上にアヴァンに対して不信と嫌悪を感じていた。

 それなり以上に従軍経験のある柳也は、相手の言動を観察することでその人物の能力をある程度ではあるが見定めることができる。時として同じ、あるいは自分よりも目上の軍人相手に教鞭をふるうことさえあった彼からしてみればそれは決して難しいことではなかった。

 その柳也をして、アヴァン・ルースの評価は総じて低い―――――いや、そもそも軍人に見えなかった。立ち振る舞い、身のこなしを見ても到底鍛えているようには見えないし、実際筋肉の付き方もしっかりしているようには感じられなかった。

 そして実務能力も指揮官として疑わしい部分が多い。例えば今この瞬間もそうだ。今後の艦の針路をブリッジで検討するべき状況でありながら部下に丸投げして格納庫で機械いじりをしている。

 以上を踏まえると副隊長の闇舞北斗のほうが部隊長に相応しい、というのが柳也の結論である。アヴァン・ルースに外交上、大きな影響を及ぼすような肩書などがあるとは思えないし、そういった情報もない。ジョンに聞いてもメジェストゥ配下の幹部である以外は特に目立った地位も持っていないようだ。

 にも拘らず少佐という階級に就いているのは、大将であるメジェストゥと何か深いつながりがあるからではないのか? あるいは愛人的な関係で、実はおんぶにだっこで今のポジションを宛がわれているのでは?

(グヌヌヌヌ……おのれ、アヴァン・ルース! メジェストゥ閣下をたぶらかしおってェェェッ!!!)

 という諸々すべてが柳也の嫌悪と不信の根拠であり、いわゆる本音であった。

 対してアヴァンは彼の内心に全く気付いた様子はなく、いつもの軽いノリで柳也たちへ腕輪のようなものを二つ、投げてよこした。

「なんじゃこりゃ」

「マナ・トランシーバーだ。永遠神剣同士の念話を俺たちの無線機とやり取りできる、中継器みたいなものだ。ついでに神剣そのものの人格の声を出すスピーカーとしても使える。常に身に着けておくんだ。いいな? 外すなよ、絶対に外すなよ?」

「ほほう、そりゃ便利だな。ありがたく使わせ、て――――――なに?」

 嬉々として身に着けようとした柳也の手が止まった。

 その表情は驚愕と緊張に強張り、アイリスの視線には殺気さえ宿っている。

「お前……知っているのか? 俺たちを、永遠神剣を!」

 目にもとまらぬ、恐らく柳也の生涯で最速に限りなく近い抜刀で柳也は愛刀・同田貫の切っ先をアヴァン・ルースの喉元へ押し当てた。彼の放つ殺気は鋭く重い。殺人と戦闘を幾度も経験した人間だけが持ち得る威圧感に対して、アヴァンは飄々とした態度を崩さない。

「知っているのか、と聞かれれば答えはイエスだ。だが俺が今必要としているのは神剣使いではなく、優秀な兵士だということは理解してもらいたいな」

「だったら尚更、お前の目的が理解できん。軍の上層部に籍を置き、永遠神剣に関する知識さえ持っている男が、俺たちを抱き込んで何をしようというんだ」

 同田貫を突きつけたままなおも柳也が問い質し、しかしアヴァンは口をつぐんだまま時間だけが過ぎていく。

 柳也の知る限り、このセルダールに永遠神剣と呼ばれる物は存在しない。少なくとも街で流れるニュースや図書館などで閲覧できる文献を見る限り、その存在を確認することはできなかった。逆に世界の表側には無い情報を持っているということは暗に世界の裏側に生きる人間であること、つまり信用ならざる者であることを示している。ましてや彼らの経験則上、そういった相手は往々にして敵対者であることが多かった。警戒しないはずがない。

 その張りつめた空気を乱したのは艦内放送のスピーカーだった。

『総員ブリッジに集合せよ。敵の所在が判明した。繰り返す、総員ブリッジに集合せよ』

 流れてくる闇舞北斗の声は状況の著しい変化を知らせていた。

 幾分か冷静になったのか、柳也はよどみない動作で刀を鞘に納めると苛立ちをもみ消すようにボリボリと頭を掻き、それから武骨な右手を差し出した。

「難しい話は後回しだ。とりあえず目の前の問題を片付けようぜ」

「いいのか? 裏切らない保証は無いぞ」

「その時はアンタの首を貰い受けるだけさ」

「覚えておく」

 アヴァンの右手が差し出された柳也の右手と交わる。傍観に徹していたアイリスもどことなく安堵の表情を見せた。

 しかし男たちの握手はほんの一瞬で、動き出した状況は待ってはくれない。三人は足早にブリッジへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 セルダール星系外周部に広がる小惑星密集宙域の外側で静かに佇む巨大な艦影が一つ。前後に伸びる頑強な艦体に左右へ大きく広げた主翼が一対。そして艦体後部に雄々しく鎮座するブリッジ……これこそがEDENが最新鋭の軍事技術と一個艦隊分の予算を投入して完成させた新たなフラッグシップ。

 全局面対応型高機動戦艦壱番艦『ルクシオール』である。

 EMなどの艦載機の運用に重きを置いた設計になっているが艦自体の戦闘力も極限まで高められており、少なくとも対艦隊戦においては絶対的優位性を持つと言われている。

 そのルクシオールへ着艦する一隻の輸送艦をブリッジから見つめる男が一人。

 艦長、そしてルクシオールが所属するEDEN軍統括艦隊司令官を務めるレスター・クールダラス大将その人である。銀髪の合間から覗く鋭い双眸、そしてその右眼を覆うメカニカルなアイパッチが彼の凄味を際立たせている。かつて旧トランスバール皇国で繰り広げられた激戦を潜り抜けてきた猛者は、当時と変わらぬ姿で厳しい眼差しを注いでいた。

「何か心配事ですか、司令?」

 傍らの女性オペレーターが柔らかな表情で問いかける。

「いや……上手く事が運べている状況がな」

「?」

「出発前に戦闘に巻き込まれたことも、クーデターが勃発して不安定な情勢下で無事に合流できたことも、出来過ぎている気がしてならない。本星の航路規制をすり抜けられた時点で、セルダール軍から何らかの手引きがあったと見るべきだ」

 そこへ輸送艦の収容が完了した旨の報告が届き、レスターは踵を返してブリッジを後にした。もちろん合流したメンバーに会うためだ。

 しかしその内心は決して穏やかではない。

(何故だ? セルダール軍はEDEN側に戦力を渡したくは無いはず。敢えて便宜を図る理由がどこに在るというんだ)

 確かにメジェストゥの表明演説の内容は必ずしもEDENとの敵対を明言するものではない。むしろEDEN全体ではなく、特定の内部組織への攻撃を示唆するものとも解釈できる。

 しかしNEUEで活動しているEDEN軍は事実上このルクシオールのみだ。他には連邦から派遣されている親善大使や、流通を担う各企業ぐらいである。

(いったい連中は何と戦うというんだ……)

 そんなレスターの疑念もここまでだ。最後のドアを潜った彼の前には主格納庫の滑走路にワイヤーで係留される輸送艦の姿がある。輸送艦の搭乗員はすでに下船し、格納庫の一角でルクシオール乗艦のための手続きを始めていた。レスターは迷わず早足で近寄り、だがその顔ぶれを見て驚嘆の声を漏らさずにはいられなかった。

 かつて仲間だった顔。

 かつて仲間を裏切った顔。

 かつての戦いの中で行方知れずとなった顔。

「アンス……ネイバート!?」

 

 

 

 結局、ルクシオールへ乗り込んだのは元々合流予定だったフォルテ・シュトーレンと新人パイロットおよび補佐A.I『アンジー』、そして現地で負傷した少女士官と件のアンス・ネイバートの五人だった。

「報告を聞こう」

 場所をブリーフィングルームに移してレスターはフォルテに促した。

 少女はそのまま医務室へ運ばれていったので、あとこの場にいるのはカズヤとアンジー、アンスの三人になる。不安げに場を見守るカズヤに対してアンスはまるで他人事のように平然としていた。

「見ての通りカズヤとMk‐Uは無事合流。運よく戦闘に巻き込まれて負傷したリコも収容できた。そこの裏切り者は、Mk‐U運用の為に同行させているだけだよ」

 あの少女士官はリコという名前らしい。しかしアンスに対するフォルテの言葉の刺々しさは生半可なものではない。

 それでもレスターは冷静に言葉を続けた。

「質問に答えてもらおう。アンス・ネイバート特別技術顧問」

「どうぞ」

「あの男は……アヴァン・ルースはどこにいる」

 その問いにアンスの表情が少しだけ陰ったのをカズヤは確かに見た。

「残念ながらあれから四年間、今も音信不通です」

「では何故セルダールにいる」

「生計を立てるためです。貴方達と手を切った以上、トランスバールには居られませんので」

 あくまで平静に答える金髪の美女は挑発的な笑みさえ浮かべている。

 その不敵な姿勢にレスターの声にも怒気がこもった。

「俺たちがお前を逮捕するとは考えなかったのか?」

「罪状は? そもそも『あの事件』は皇国軍が無かったことにしたというのに、そちらが自分達の都合で消した事件の罪を問うと? アヴァンの忠告は四年経っても生かされてはいないようね」

 レスターが言葉を詰まらせる。それはアンスの話が事実であり、同時に彼女の過去を暗に示していた。

「…………いいだろう。今は『これから』のことだけに専念する。互いに古傷を抉ることはしない。フォルテもそれでいいな?」

「ちっ、好きにしな」

 感情を飲み込み切れていないのだろう。フォルテが顔をそむけたまま舌打ちを返す。それを見てレスターは大きく息をついた。重苦しい空気はこれまでだ、と言わんばかりにわざとらしい仕草だったが、それが彼なりの周りへの合図だということは初対面のカズヤにもなんとなしに伝わっていた。

 改めてカズヤはレスターと向き合う。

「カズヤ・シラナミです。よろしくお願いします」

Mk‐Uの総合A.Iのアンジーです。いくら艦長がイケメンでも私はマスター一筋の一途な乙女です」

 「どんな予防線の張り方だ」と心の中でツッコミを入れたアンスとフォルテだったが、さすがに声には出さなかった。

「俺はEDEN連邦軍総司令官のレスター・クールダラスだ。この戦艦『ルクシオール』の艦長も兼任している。それから一応妻帯者で一児の父だから覚えておけ」

「「いつの間に!?」」

 これにはアンスとフォルテも声を上げずにはいられなかったようだが、レスターはあくまで彼女たちはスルーする方針らしく一瞥もくれない。

「どういうことですか、フォルテ少佐。確かにアルモといい仲だったとは聞いてましたけど」

「どうもね、ヴァル・ファスク戦役の後ぐらいでアルモとはこっそり籍は入れてたらしいんだよ。っていうか、ずっと艦長職やってんのに、どこにそんな種を仕込む時間があったんだか」

 さっきまでの険悪なムードなどどこ吹く風で井戸端会議を始める始末である。本当は結構馬が合うのかもしれない。

 ちなみにアルモとは、レスターたちが以前乗船していた儀礼艦『エルシオール』のオペレーターを務めていた女性のことである。詳しくは前作の第二章から第三章を参照していただきたい。

「さて、カズヤ少尉。君の双肩には極めて重大な責任がのしかかることになる。それは最新鋭機のパイロットだとか、そんな上辺だけのものじゃあない」

 新型機のパイロットというだけでも十分重責なのだが、レスターの眼光に気圧されてカズヤは頷くことしかできない。

「この機体―――――Galaxy Mk‐Uはかつてトランスバール皇国の窮地を救った英雄、タクト・マイヤーズが搭乗した機体の後継機だ。つまり英雄の象徴だな」

「え、英雄……」

「そう、英雄だ。かつて侵略者の猛攻から、今のEDEN連邦の中核となったトランスバール皇国を守った男だ。君はこれからそれと同じことを期待されることになる」

 英雄という言葉の響きは美しいが、軍が英雄と同じことをさせるのなら、同時に自分は軍の傀儡となってしまうのではないか。そう考えると腹の底から忌々しさが込み上げてくる。

 カズヤの曇った表情を見つつ、レスターはやれやれと肩をすくめて言った。

「先にはっきりさせておくが、現在我々はセルダール軍によって次元間通信網を遮断され、EDEN連邦との連絡がつかず上層部からの指示が受けられない状態にある。従ってルクシオールは現地の情勢を考慮し、独自の判断で行動しなければならない」

 レスターの言葉は既存のあらゆる指揮系統に属さず、何者の命令にも従わないと宣言しているに等しかった。EDEN連邦の軍司令官が口にしていい内容ではないが、それでも目の前の銀髪の将軍は特に意に介さず喋り続ける。

「クーデターによって誕生した現政府を倒すべきなのか、あるいは共存していくべきなのか。まずはこれを見極めるための情報収集を行う。誰と戦うかどうかはそれから決めるべきだと、俺は考えている」

 さらに小声で「連邦の狸共の言う事なぞ糞喰らえだ」と吐き捨てると、レスターは不敵な笑みを浮かべて問いかけた。

「今後の方針について君の意見を聞こう。カズヤ少尉」

 カズヤは逡巡した。

 こんな都合のいい言葉を簡単に信じるべきではない。過去の記憶が胸を掻き毟るような焦燥感と共に警告してくる。だが、その危険な誘いに敢えて乗ったのはカズヤ自身である。今更躊躇するのならそもそもフォルテの勧誘を受けた時点で断っている。

 では、自分の目的は?

 軍に利用されるかもしれないリスクを呑んで尚も追い求める物は?

「艦長」

「うむ」

「僕は戦う力を持たない人々を戦争に巻き込むべきではないと考えます。その為ならあらゆる手段を惜しまないつもりです」

「仲間の命と引き換えにしてもか?」

「それは僕の言う『手段』には入っていませんし、入れるつもりもありません」

 レスターが目を細める。

「お前は自分一人の命で全てを守るつもりか」

「…………どこまでやれるかは分からないですけど」

「死ぬぞ。それこそタクト・マイヤーズのように、な」

 その言葉にカズヤは踵を返した。両の手を握り締め、腹の奥底から吐き出したい感情を抑え込んだ上で少年は笑顔を作ってこう言った。

 

 

 

 

「あの時の惨劇を繰り返さないためなら、自分の命なんか要りません」

 

 

 

 

 

 

 

 SZ4099コロニーは呪怨戦争以前、セルダールが国家事業として展開していた『星系外周資源回収計画』によって建造された採掘拠点用コロニーの内の一基である。完成は実に30年も前のことだ。他のコロニーが番号のみで識別されるのに対して、周囲に漂う小惑星群によって通信信号に映像ノイズが入ることからモノクロのノイズを縦縞に見立てて、「シグナル・ゼブラ」のあだ名がつき、呼称もSZが頭につくようになったという話がある(今は通信網の整備によってほぼ改善されている)。

 もっとも、その話を知る人間はこの世には殆どいない。呪怨戦争が勃発してすぐにマジーク軍の総攻撃を受けたこのコロニーは、現地行政府を含む居住者全てと共にセルダール軍から放棄され、非公式の情報ではあるが居住者は全滅したとされている。

 しかし今、無人であるはずのコロニー内は所々に明かりが灯り、それどころかいがみ合う人の声まで聞こえてくるではないか。放棄された居住区の一角から、声の主は複数、すべて男の声だが一人だけ老人と思しきしわがれたものが混じっている。

「子供たちは無事なんじゃろうな!? 確認出来るまで鍵は渡さん!」

「今仲間にシャトルへ移動させている。赤髪のじゃじゃ馬娘が逃げ出した以外は。おそれより例の未使用資源の話、間違いないんだろうな」

「確かにこのコロニーの中枢区画はそれの貯蔵庫になっとる……今更になって呪詛媒体を持ち出して何をするというのか。戦争なぞとうに終わったはずじゃろうに」

 呪詛媒体。

 ある惑星資源から精製される、呪怨兵器の製造に必要不可欠な物質。マジークで古来より培われてきた呪術の効力を劇的に増加させることが出来るとされるが、その精製から利用方法に至るすべてはマジークの統治機関『魔女会議』の最重要機密とされている。

 しかしこれはマジーク国内でしか生産されておらず、敵対関係にあったセルダールの宇宙コロニーに持ち込まれるような代物ではない。もちろんセルダール側に門外不出の生産技術が存在するはずもなかった。

 老人と相対する男は、その出所不明の希少物質を求めて放棄されたコロニーに足を踏み入れたようである。

「フフフ……我が主が所望なのだよ。お前の言う呪詛媒体……リステリジウムを、な」

「ま、まさか―――――」

 明かりが揺れ、後ろ手に縛られた老人の前に立つ男の姿が浮かび上がる。その屈強な肉体はセルダール軍の制服に包まれており、暗闇にかすかに見える階級章から佐官であることだけは間違いない。

「ついてこい! 貯蔵庫まで案内してもらおう!」

 抵抗する老人を無理やり引き連れ、軍服の男は歩き出した。行き先は先の台詞通りであればコロニーの中枢区画だろう。その行く手を阻むものは何もなく、惨劇へのカウントダウンのように男の足音が鳴り響くばかりだ。

 

 

 

「ちっ、長老が連れていかれたか。いよいよ俺一人でなんとかしねえと――――――」

 連れ去られる老人の姿を換気用ダクトの金網越しに見つめる少女。その髪は燃えるような赤色で、鋭く光る瞳には強い意志が宿っている。

 しかし軍隊を相手にするには彼女は非力すぎる。

 役者はまだ、舞台に出揃ってはいないのだ……

 

 

 

予告

宇宙(そら)の闇に埋もれたそれは罠か、宝か。

かつて呪怨戦争が生み出した遺物を求めてうごめく陰謀に、カズヤが挑む。

忘れられたコロニーを戦場に、交錯する怒りと怨讐。

破壊の炎は少年兵に何を見せるのか。

次回『紅蓮』。これが銃を持つ者の定めだ。

 

 


あとがき

 

ゆきっぷう「皆様、この度は第二次銀河天使大戦第一章三節を最後までお読みいただきありがとうございます。今回はいよいよ敵の陰謀が動き始めたところでいざ次回へ、となりました。へ? いやにサブキャラの登場シーンが多い? いやいや、これが標準ですよ、標準」

 

北斗「アヴァン隊関係だけで全体の半分を占めていても、か?」

 

アヴァン「主人公の出番が全体の一割あるかないかだったぞ?」

 

柳也「いやあ、そんなことねぇべさ。ほれ、俺めっちゃ頑張ってたやん」

 

アイリス「お前は自分の立場を分かっているのか? 誰が主人公だ、誰が?」

 

柳也「うん? 当然、オ レ だ ろ ☆ミ」

 

 

アヴァン「ヴェッダァァァァヴィィィィムゥッ!!!」(柳也に向かって)

 

北斗「ディメンション・トリガァァァァッ!!!」(柳也に向かって)

 

アイリス「ギア・オンッッッ!!!」(柳也に向かって)

 

柳也「ぎゃぱぽえぽえぽあばああああぁぁぁああぁぁあああっぁあああああああああああああああああっっ!!!」(咄嗟にゆきっぷうを抱きかかえて)

 

 

 

カズヤ「りゅ、柳也さんが主人公!? そ、そんなの嘘だー!!」(泣きながら楽屋部屋より退室)

 

タハ乱暴「減点一点。そこはオンドォル語を使うべきだった。まだまだ主人公への道は遠いなー」

 

アルフィ「オンドゥル語は主人公の必須スキルじゃないわよ。まったく……」

 

 

 

 

アヴァン「というわけで、恒例の柳也制裁ゆきっぷう巻き添え、主人公を目指すカズヤの苦悩まで書いたところで、ちゃんとしたあとがきを始めよう」

 

柳也「え? 恒例なの、あれ?」

 

アヴァン「恒例だ。それから進行に差し支えるからお前は暫く喋るな、アイリス君、宜しく頼む」

 

アイリス「ほら、柳也。お前はこっちだ。言うことを聞かなければどさくさに紛れて回収しておいた熟女白書を目の前で燃やすぞ」

 

柳也「そんな殺生な! ま、待て、アイリス。待てってば」(熟女白書を人質に取ったアイリスを追いかけながら『徹k……もとい、あとがきの部屋』から退室)

 

アヴァン「さて、今回はルクシオールとの合流と次の戦闘への伏線がメインだったな」

 

北斗「あとは先ほども書いた通り、アヴァン隊……というより、セルダール軍内の人間関係か。要するに、今回はいわゆる繋ぎの話だったわけだ。次の舞台へ上がるための、準備の回だった」

 

ゆきっぷう「ツッコミがあれば聞こう! いや聞かせてくださいお願いします!」

 

タハ乱暴「ジョン、あれ、誰やねん? わりと出番貰ってたけんど……ハ! まさか、一発キャラか!? 一発キャラなのか!?」(←白々しい態度)

 

アヴァン「んー、あー、アセリアanotherで登場しては死んでいく名前付きのスピリットと一緒にするなよ?」

 

北斗「つまりレギュラーということだな。セルダール・サイドにおける主人公のような扱いだ」

 

柳也「へ!? 俺でしょ! こっちサイドの主人公俺でしょ!?」(熟女白書を奪い取って戻ってきた)

 

北斗「お前は……。他人様の作品で主人公を務めるなど、おこがましいと思え」

 

アヴァン「色々事情があってな。俺や北斗は大っぴらには動けないし、柳也やアイリス君は戦闘シーンや軍事的要素の強いシーンでは活躍出来ても、それ以外は正直、戦力外だからな」

 

柳也「そんなことないべさー。おで、ちゃんと働きますってー。世のため熟女のため、美女の尻を眺めつつ、喫茶店で働いたりするっぺさー。日常パート? どんとこいや! 恋愛シーン? 大好物ですよぼばっ!?」(投擲されたシルバーのトレイがこめかみにヒットして昏倒)

 

アイリス「誰が! お前と恋愛シーンなどやるものか、大馬鹿者めぇっ!」

 

北斗「……誰もアイリス君と、なんて言っていないのになぁ」ひそひそ

 

タハ乱暴「……ほら、ゆきっぷう的には。あれだって」ひそひそ

 

アヴァン「……というわけで、シーンを問わずあらゆる場面で活躍出来るキャラクターとして、ジョン・マクファーレンなる人物が生まれたわけだ。……さあジョン、この作品に対する、きみの意気込みを語ってやれ」

 

ジョン「どうも、不死身のバーコフ、もといアヴァン隊に配属になりましたジョン・マクファーレンです。タハ乱暴さんからは某スピードの主役の方と勘違いされたりして苦労していますが、皆さんと一緒に良い作品になるよう頑張りたいと思います」

 

北斗「……素晴らしい!」

 

タハ乱暴「なんて素直な子なんだ。そしてなんて素敵な意気込みを語る少年なんだ! ウチの子にも見習わせてやりたい!」

 

ウチの子「えー? 俺、素直だと思うけどなー。自分の欲望とか。戦うの大好きだし、売られた喧嘩はちゃんと買うし、熟女は好きだし、メジェストゥ閣下には早く会いたいし、熟女は好きだし、砂肝美味しいし、熟女は好きだし、メジェストゥ閣下とデート行きたいジェノヴァッ!?」(背中からアイリスに袈裟切りにされる)

 

北斗「……さっきから見ていて思ったんだが、アイリス君はあの男がほかの女の名前を口にしたりするとやけに狂暴化するな」ひそひそ

 

タハ乱暴「……ほら、そこはあれだ。ゆきっぷう的に、あれなんだよ」ひそひそ

 

 

ジョン「えっ!? アイリスさんって柳也さんと……!?」

 

アイリス「ち、違うんだ、ジョン! これはその、奴が他の女にほいほいついていくとロクなことにならなくて苦労させられていたから、つい、反射的に防衛行動を取ってしまうだけで……」

 

タハ乱暴「確定やないですか……って、柳也? どうした? なに、両耳を押さえているんだ?」

 

柳也「ラノベ主人公のご用達、突発性難聴というスキルは俺にはないので……。なんか、いま、アイリスの言葉を聞くと、今後の人間関係がどろっどろっになりそうだからさ」

 

アイリス「だから私と貴様は関係ないと言っている!」

 

ジョン「やっぱりそうなんですね! うわあぁぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!」(部屋から飛び出していく)

 

タハ乱暴「あらやだ、いじめすぎちゃったかしら……。まあさておき、今回の第三話では、一気に新しいキャラクターが登場したな。最後の赤髪の女の子とか」

 

柳也「(将来良い熟女になるかどうか)気になるよなー」

 

北斗「(将来一緒に美味い酒が呑める相手となるかどうか)大いに気になるな」

 

アヴァン「次回は予告の通りの内容になる予定だ。ちなみにしばらくの間、予告文は『ほのおのにおいしみついて むせる』とか『遠く弾ける鉄のドラム』とか、そんなフレーズの似合いそうなモチーフにしていくそうだ」

 

アンス「アヴァン、ゆきっぷうが『白銀武は異能生存体なんだ! 異能生存体だったんだよ!』とか言って暴れてたので拘束しておいたわよ。何なのかしらね、あれ」

 

アヴァン「おそらくは観たんだろうな、あの作品を」

 

北斗「そして影響を受けてしまったに違いない」

 

柳也「そのうちMk‐Uのフェイスシールドがアレっぽくなったりなぁ」

 

タハ乱暴「はははっ。さすがにそれはないって!」(←フリ)

 

柳也「そっかー」(←フリ)

 

アンス「ああ、アヴァン。終盤で柳也たちが乗るヘクトールの右肩、分かりやすいように赤く塗っておきますね」

 

北斗「きみがいちばん影響を受けているじゃないかッ!」

 

アンス「北斗、あなたのミッションディスクもPS用に取り換えてあげますね。あと脚部もターボカスタムにしないと」

 

柳也「技術がある分タチ悪いぞ、このメカニック!」

 

アンス「柳也! あなたにはヂヂリウムの強化実験の被験体になってもらいますよ!」

 

タハ乱暴「あああ……どんどんアンスのキャラがおかしな方向へ進んでいく」

 

アヴァン「うむ、ようやく本来の調子が出てきたみたいだな。やり過ぎだけど」

 

アンス「フフフ……そうだ、白銀特務官用にヘクトールVを改造しないと」

 

アヴァン「じゃあそろそろ例のコーナー、いくぞー」

 

 

 

 

アヴァン・北斗・アンス・バネッサ「「「「第二回! なぜなにギンテン〜♪」」」」

 

アヴァン「で、今回は何をやるんだ?」

 

アンス「みんな大好き、量産機のお話(セルダール編)です!」(瞳をキラキラさせている)

 

バネッサ「量産機というと……ああ、あの緑色の一つ目!」

 

北斗「バネッサ……歳がばれるぞ」

 

バネッサ「ふふん♪ ざく・うぉーりあー♪」

 

北斗「むぅ! それは某種運命の!?」

 

バネッサ「これだったらわたしの年齢は……」

 

アヴァン「まあもっとも、その世代だとすると、闇舞北斗はマジモノの幼女に手を出した変態ということになってしまうんだけどな」

 

アンス「さてさて、今回はですね。セルダール軍で運用されているヘクトールUを中心とした量産型機動兵器に関する解説を行います」

 

バネッサ「まず下の開発系譜を見てください」

 

EMX-01 Galaxy EMS-01(02) Hectorl EMS-03 HectorlU

 

バネッサ「ご覧の通り、作中でベングリン隊や敵のEM隊が使用している機体であるHectorlU(ヘクトールU)は、前作主人公機『Galaxy』の直径量産型『Hectorl』の次世代機に該当します。ちなみに初代ヘクトールには初期ロットのギャラクシーと同じツインアイを採用したモデルと、後期のバイザーアイタイプの低コスト型の両タイプが存在するためそれぞれ前者を01、後者を02と分けています。前作にそんな描写は無かったかもしれませんが、実はあったんです。不思議ですね」

 

北斗「人それを、EMVという」

 

バネッサ「V? ……ああ、高機動型の一つ目巨人!」

 

北斗「バネッサ、やっぱり歳が……」

 

アンス「まあ、この手のリアル系ロボット物ではやっておきたいネタではありますね。MSV

 

アヴァン「そもそも、ヘクトールは宇宙艦隊の直援機として開発された。当時の皇国軍では、主力はあくまで戦艦を初めとする宇宙艦艇で、EMはそれを補助する立場に過ぎなかったんだ。しかし前作においてタクト・マイヤーズがGalaxy単機で多大な戦果を挙げたのを受けて、軍部は方針を変更した。ヘクトールを主戦力として運用するプランを、部分的に採用することにしたのさ。

 初代ヘクトールの開発・生産は白き月が一手に行っていたが、それ故に調達数や兵装のバリエーションが乏しく、現場では運用の幅をなかなか広げられなかった。また、もともと艦隊支援用にデザインされたヘクトールだ。戦闘能力向上のための拡張性は、十分とは言い難かった。そこで次世代機の開発プロジェクトが発足した。

 しかしプロジェクトが予算を獲得し、本格的に稼働し始めた時点でこれまでの開発の中心人物であったアンス・ネイバート、タクト・マイヤーズの両名は行方不明になっており、開発は難航を極めた。

 遅々として進まないプロジェクトに業を煮やした皇国軍は民間の軍需産業との共同開発に踏み切る。機体本体は機密の関係上、委託出来なかったが、各種兵装・追加パーツの開発、生産を発注することで軍側の開発チームの負担を軽減することに成功した。瞬く間に新型ヘクトールはロールアウトに至り、また豊富なオプション類の導入によって運用のバリエーションも大幅に向上した。

 同時期、NEUEとの国交も始まったことでこの新型ヘクトールは異国での現地運用と共に輸出が検討され始め、ついにセルダールでのライセンス契約・生産へと……えふっ、み、水! 水くれ! 喉が、喉が……」

 

北斗「アヴァン……ここまで一人でよく頑張った。ここから先は、俺が引き継ごう。まずは機体そのものの解説だな。

 新型ヘクトールの開発コンセプトは主力機としての次世代EMというものだった。ヘクトールUには旧型機以上の基本性能は勿論のこと、軍の主力機に求められる性能が付与されている」

 

バネッサ「主力機に求められる性能?」

 

北斗「もともと支援機として設計されたヘクトールは、現代の兵器体系に乱暴に当てはめると、自走砲のような扱いになる。この例えでいえば、ヘクトールUで目指したのは戦車だ。つまり、単機あたりの戦闘力の強化に主眼が置かれた。

 戦車の戦闘力を構成する三要素は火力・装甲防御力・機動性だ。ヘクトールUではまず、この火力面の強化が図られた。多種多様な武装が開発されると同時に、それらを効率的に運用するため、火器管制システムの性能が大幅に向上している。また、パワーソースとなる『デュアル・クロノストリングス・エンジンU』は、出力向上と同時に安定性の向上が図られている。これによりヘクトールUは、ビーム兵器の安定した運用を可能ならしめた。

 機動性については、ヘクトールUでは直線的なスピードよりも、小回りの利き、瞬間的な加速力といった運動性に重きを置かれている。これもまた、ヘクトールUが戦車として開発された証左だ」

 

アンス「戦車ですって!? あんな、あんな骨董品とヘクトールを一緒にムグムグ」

 

アヴァン「例えだから、例え」

 

北斗「まあ、彼女からすれば、ヘクトールシリーズはわが子も同然だからなぁ。……ヘクトールUでは後方からの砲撃ではなく、前線での立ち回りを重視しているわけだ。

 火力と機動性の性能向上が著しい他方で、あまり目立った進歩が見当たらないのが装甲防御力だ。これは異世界と国交を結んだ後も、革新的な治金技術の進歩がなかったことによる。勿論、部材そのもののマイナーチェンジや、装甲厚の再設計などにより、少なからず防御力が上がっているがな。

 なお、ヘクトールUは見た目よりも中身の性能向上が著しいため、ヘクトールTとの外見上の差異は少ない。僅かに、ツイン・カメラへの先祖返りがあったくらいだ」

 

アヴァン「んぐんぐ……まあ、要するにダギャッ!?」

 

アンス「要するにですね、ヘクトールUは初代に比べて大幅なスペックの向上を果たし、ようやく一人前の人型機動兵器として誕生出来たわけです。そしてこの独立した機体モデルは様々な派生機を生み出すことでしょう。例えば第一節、二節にさりげなく登場していたヘクトールVはセルダールの王宮近衛隊が使用する特別機としてセルダール軍が独自に開発したものですし、セルダールより遅れて生産を開始したマジークでも別の運用路線に合わせて改修した機体があると聞きますしね」

 

北斗「セルダール軍仕様の機体の話が出てきたので、バリュエーション機の話をしようか。先述の通り、ヘクトールUはトランスバール皇国軍だけでなく、NEUE側にも輸出されている。これらの輸出モデルは、所属組織ごとに最適化され、果ては様々な現地改修機を生み出した」

 

バネッサ「ネタバレもアレなので、あまり詳細は語りませんが……『ガ○ダムMSV』でいうところの、D型とかK型とか……」

 

北斗「バネッサ……やっぱり歳が……」

 

バネッサ「あ! そういえばこの前の要望書はどうなったんですか!? ザクスナイパーとか、ジムスナイパー的な!」

 

アヴァン「あー、うん、断られたよ。でね、アンスがね、個人的に作ってくれるって。デカイやつ」

 

バネッサ「デカイ……アハトアハトですね!」

 

アヴァン「いや、違うと思うが」

 

柳也「88mm砲が出ると聞いて!」

 

アヴァン「はい、退場〜」

 

柳也「じ、次元のはざまに飲み込まれるー」

 

北斗「出オチだったな。……機体の解説はこんなものか。普通ならば続きは兵装解説だが、まあ、これは今後のお楽しみとしておこう」

 

アヴァン「まあ、そうだな。きっとゆきっぷうが色々考えてくれているはずさ」(チラ見)

 

アンス「そうですね。きっと奇想天外な装備も出てくるでしょうね」(チラ見)

 

ゆきっぷう「EXMEM3も出ないからね」

 

アンス・武「「マジ!?」」

 

ゆきっぷう「ほれほれ、アホ言ってないで締めなさいよ」

 

アンス「もう、分かりましたよ。それでは皆さん、また次回も楽しく正しく兵器開発しましょう! さようなら〜!」

 

 

 

 

 

 

楽屋の外のベンチ

 

カズヤ「うっ……うっ……どうせ……どうせ僕なんて主人公らしくない主人公なんだ! だから出番だってもらえないんだ!」

 

ジョン「……あの、隣、いいですか?」

 

カズヤ「え? あ、はい。……あれ? あなたも、涙が……」

 

ジョン「ははっ。まあ、そういうことです」

 

カズヤ(この人も……出番が少なくて泣いていたのか……)

 

ジョン(そんな……まさか二人がそんな……)

 

 

 

 

 

クレータ「こちらルシファー5、新たなBLCP要素を確認。指示を乞う」

 

フィアッセ(腐)『こちらルシファー1。観察を継続、情報を逐次報告してね』

 

クレータ「ルシファー5了解」

 

タハ乱暴「そういやいたなあ、ゆきっぷう作品に。フィアッセ(腐)」




今回は繋ぎという事もあってか、結構キャラが出てきていたな。
美姫 「久しぶりの再会とかもあったみたいだけど」
そちらよりも柳也の発言ばかりが残っているのは何故なんだろう。
美姫 「色々な意味でインパクトのあるキャラだしね」
頑張れカズヤ。
美姫 「それにしても最後は気になる感じで終わりよね」
ああ。続きが気になります。
美姫 「次回も待ってますね」
待ってます!



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