『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




CU え〜っと、ほのかちゃんと一緒に東京ディズニーランド行きたかったなぁ

 美由希がその姿に気付いたのは、ほんの偶然だった。
 何気なく誘拐現場を見ておこうと、色々と思案している兄とリスティを置いて、暇そうだった剣心をつれて代官山に来た時だった。
 幾度となく八束神社で見かけた後姿だったので、思わず声をかけそうになったがすぐに隣に白髪で長身の男性がいたので思い止まった。
「どうかした?」
  隣で剣心が唐突に足を止めた美由希につられる形で立ち止まった。
「うぇ?」
 奇声で返事をしてしまい、思いっきり顔を赤くしてしまったがそれでも何とか首を横に振る事で何でもないと返答する。が、動かせられなかった視線ははっきりと剣心に伝わり、同じ方向に顔を向けさせる原因となった。
「あれ? あれって……」
「やっぱりそう思う?」
「うん。でも隣の奴は誰だ?」
 やはり一番最初に目に付いたのは、隣の白髪の男性なのだろう。
 お互いの顔を見合して、そろそろとウインドウショッピングをしている二人に近づいてみる。
 少し横髪にシャギーの入った感情の乏しい和風美人は、二人の知り合いに一人しか見当たらない。
「雪代?」
 それでもたっぷりと数拍の間をおいて、代表するかのように剣心が和風美人に声をかけた。
 和風美人は声にはたと反応して、それからゆっくりと振り返った。
 そして自分の想像と同じ人物が目の前に居る事を確認すると、美人は僅かに口元を緩ませた。
 だがこれに気付いたのは美由希と隣に立っている白髪の男性だけだった。
 男性はこれまた色素の薄い白い瞳を、ミニグラスの下から頭二つは低い剣心を蔑むように睨み付けた。
「な、何か……?」
「おまえ、緋村か?」
「へ? あ、えと、はぁ緋村剣心ですけど……」
「こんな奴が……またこんな……」
 わからない事を言われ続けて、剣心も美由希も、巴すら不信な表情を浮かべている。
 そんな三人の視線に気付き、男性は舌打ちしてそっぽを向いた。
「……こんにちわ。お二人とも」
「何事もないように挨拶はすごいわ」
 ぽつりと巴の反応にツッコんで、剣心は小さく息をついてから手を上げた。
「こんにちわ。巴さん」
「緋村君も美由希さんも何故ここに?」
「一応フィアッセと椎名さんのコンサートだったんだけど」
 苦笑を溢して頬をぽりぽりと掻く美由希に、小首をかしげて隣にいる剣心に視線を向ける。
「あ〜……実はなんでかわからないけど、千堂さんが」
「千堂さん?」
 あまり面識はないが、神咲薫の友人であると那美や耕介から聞いたのを思い出す。
「その千堂さんが脱走した銀行強盗犯に捕まったらしくて」
「それで東京に来ていたリスティさんに頼まれて協力してるの」
 変な展開だよなぁ。と、一言呟いている剣心に、またも無意識で笑みが零れる。二度も珍しい巴の笑顔を見せ付けられて、男性は目端を吊り上げた。
「俺もその千堂ってのを探す」
「……はい?」
 これまた唐突な申し出に、剣心だけではなく美由希まで目を点にした。
「俺も探す。緋村に任せておけるか!」
 男性は睨むを通り越して明らかな怒りをぶつけながら、ミニグラスを中指で押し上げた。その指の隙間から覗いた眼差しに、剣心は背筋をぞくりと泡立たせた。
「そ、それはありがたい申し出だけど……」
「兄はこう見えて倭刀術という変わった剣術を使えます。強いです」
「は、はぁ。倭刀術……ってちょっと待って」
「何か?」
「兄?」
「はい。兄の雪代縁です」
「全然似てな……。いえ、何でもないです」
 正直な感想を反射的に洩らしかけて、慌てて口を紡ぐとちらりと隣の美由希の顔色を伺う。
 こちらも突然の展開についていけずに、視線に気付いてから力いっぱい首を横に振る。
「ダメと言われようが探すからな」
 どうやら選択肢がないようである。
 異様な雰囲気に威圧されて、もはや元々穏かな性格の二人に、断るための言葉は浮かばなかった。

「これでいいのカ?」
 強引に直していた発音を慣れているものに切り替えて、トイレと言って抜けてきたコンビニと雑居ビルの隙間で、縁は携帯から電話をかけていた。
『ええ。少し強引過ぎる印象もありましたが、問題ないでしょう』
「フン。俺はまた姉さんを死ナセたくないダケダ」
『利害の一致での協力。これ以上の信頼関係はないですからね〜。あ、安心してくださいね。約束はしっかり守りますよ』
「当然ダ! 平穏な世界からシュラの蔓延る世界に連れ戻されたのダ!」
『まぁまぁ。怒らなくても大丈夫ですってば。ちゃんと兆冶さんに伝えておきますから〜』
「フン」
『それじゃこっちで微調整は行うんで、適当に流されてくれてOKですので。それじゃ次回の連絡は明日に』

 プツンと通信が切れる音が受話器から聞こえて、縁と電話をしていた人物は軽い音を立てて受話器を電話機に戻した。
「だ、そうです。不器用ですが成功したようですよ」
 人物は背後にいる別の人物に振り返った。
「ああ」
「あれ? つれないな〜。もっと反応あるかと思ったのに」
「俺にどんなものを求めてやがる」
「あはは〜。それもそうですね」
 ケラケラと明るく一頻り笑うと、かつかつと踵を鳴らしてもう一人の人物に近づいた。
「で、どうします?」
「そうだな。まだ派手に動かれすぎても困るから、少し様子を見に行くか?」
「何で疑問系なんですか?」
「いや、何、俺自らでるからついてくるか? という意味だ」
「え? 志々雄さんが行くんですか?」
 人物は立ち上がったもう一人――志々雄真実に向かって大きな目を瞬いた。
「それに先輩にも挨拶をしなけりゃいけないし、それに高町って言ったか?」
「ええ。兄妹揃って動いてるみたいです」
「香港警防の死神が俺らの動きを探るために香港に戻ってるんだ。夏織もつれて親子の対面もさせてやりたいしな」
「それはそれは……。厳しいなぁ」
「煩い。元はといえば雅孝、お前の不手際だろ?」
「そんなぁ〜。ボクは何もしてないですよ〜。勝手に暴走したのはボクが依頼したあの人だけです」
「似たようなもんだ」
「どちらにしてもすでにあの人の場所は把握してます。これで四億を回収できれば目標氏金額に到達できます」
 人物――瀬田雅孝の報告に、面倒くさげに頷きながらも、口元の緩みは消す事ができなかった。
 雅孝の言うとおり、これは依頼した人物の暴走だ。
 ただ金に困らせて強盗を促しただけだったが、結果金を持って逃走したのは龍のネームバリューが衰えを見せているからだ。
 だからといって自分が自ら出張る必要性は微塵もない。
 大体雅孝一人で十分に対応できる。 
「先輩に二百年ぶりの挨拶と、土産の状態を見ておきたいしな」
「え? 何かいいました?」
「何でもない。行くぞ」

 こうして平穏な夏休みにも関わらず、眠っていた闇が本格的な胎動を開始したのだった。



遂に動き出すのか!?
美姫 「果たして、剣心たちの運命や!?」
いやいや、次回も非常に楽しみだな。
美姫 「本当よね〜」
ああ〜、待ち遠しい。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね〜」
ではでは。



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