『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




XCY そして戻ってくる日常

 頭が……痛い……。
 そりゃそうだ。
 霊体もごっそり持っていかれたし、血も足りない。今も止まらない血がただ漏れ続けている。
 ひんやりとした石畳の温度に、自分の体温が等しくなっていくのを頭の芯で理解できている。
 ああ……俺は死ぬんだ……。
 元々チューブラーベルは霊体の癌だ。
 寄生した肉体から全てを奪い殺す事により、脱皮していく。
 だから俺も同じように……。

 ――ダメ――。

 だんだんと感覚がなくなってきたな。
 こんなになるんだったら、小笠原ユミちゃんやケイ・ド・ブラドーとかみんなを色々経験しとけば良かった……。

 ――死んではダメ――。

 ?
 誰だ?
 こんな死ぬ寸前の俺を呼ぶのは……。
 
 ――貴方は、横島の子供で……私の力を受け継いだのよ――。

 かあさん?
 ……違う。

 ――何時の日か、また私は生まれ変われるかもしれない。でもだからと言って横島と美神さんの子供で……いえ、私達の子供が死ぬのを見ている訳にはいかない――。

 アンタは?
 一体……。

 ――そんなに助けられないけど、文殊数個分の霊力は活性化できるわ。それを使って貴方をそんなにした妖怪を退治しちゃいなさい――。

 そう言って振り返った瞬間、俺はようやく誰か悟った。
 父さんを助けるために、姉妹のベスパと闘って散ったもう一人の母親だと言われ続けた、写真でしか知る事ができない母親!

 ――話なんてできないと思ってたけど、少しでも話せて嬉しかったわ――。

 ル……!



「……オラ……」
 はっと。
 本当に何故自分でも目が覚めたのかわからない位に、俺は薄らと瞼を開いた。
 まだ生きている……。
 うつ伏せに倒れたために、呼吸はかなり苦しかったが、それでも四肢につながる神経はしっかりと感覚を脳に伝えてくれた。
 それでも力は上手く入らない。
 これでは死ぬのが早いか遅いかだ。
 心の中で小さく舌打をした。その時、近くで水滴が零れる音が聞こえた。限りなくゼロに近い力を振り絞って、水滴の方向に首を動かすと、そこにはおキヌちゃんのように巫女服に身を包んだ女性が、狐を膝の上に乗せて消えてしまった感情の中で、一滴だけ涙を零していた。
 いや、あれは……俺が操られて、妖気を吸い取りつくしてしまった狐の変化だ。
 女性を守るためだけに、前は変化して自分の時には変化できなかった妖怪の……。
 そして女性は狐を守りきれなくて感情が消え、涙している。
 俺のせいだ。
 あの時、俺の前に現れた三人の男達に負けちまったから。
 そうしている間に、また女性の頬を涙が伝った。
「……くな」
 もう……ないで……。
 一滴、涙が狐に落ちて、狐はぴくんと友人を悲しませないかのように体を反応させた。 俺のせいだ。俺のせいで……!

 零は本当に気付いてなかった。
 彼が意識を那美に持つたびに、掌に固い感触が生まれていくのを。
「な……くな」  
 一言を呟くたびに、感触は確実なものへと変化していく。
 そして……。
「なく……な。俺が絶対に……。俺のせいだから……責任は……」

 必ず俺が助ける!

 零の掌に生まれた文殊が爆発した。
 突然、青い光を発したかと思うと、次の瞬間、零の体内に体力が戻った。それも少しずつではなく、唐突に、突然に、そして確実に霊力までもが回復していく。
「これは……?」
 文殊には本来一つの言葉しか刻まれない。
 だが、今手にしている文殊は勾玉が重なり合い、完全な円となって勾玉に二つの文字が刻まれた。
 周囲から自然の力を吸収する『集』。もう一つは回復を意味させる『癒』。
 持っているだけでどんどん回復していく。
 もう俺にはいらない。
 何時しか血は止まっていた。
 彼が操られていた間の文殊で作られた模写は、戦闘力の強い恭也達には僅かに手こずらせただけで、時間稼ぎにしかならなかった。
 零を倒して立ち上がった彼らは、光の中で意思の輝きを持った瞳で、全員を見渡してから、文殊を久遠の上に乗せた。すぐに効果が現れたのか、涙が落ちた時よりはっきりと体を動かした。
「久遠……?」
「くぅん……」
「もう大丈夫だ。文殊の力で妖気を回復させた。チャクラが壊れてても、これで死ぬ事はない」
 力なく見上げられた那美の瞳に映ったのは、血塗れながらも操られていた時とはまるで違う凛々しさにて暴れだそうとするチューブラーベルを見据えた横島零の姿だった。
「いっくぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
 零が吼えると同時に、六つの影が走り出した。
 誰から言い出したのではない。
 ただ決着は自らの手で……。
 視線が交わった時、零からの決意は全員に伝わっていた。
「恭也君、美由希ちゃん、緋村君は体液の出ていない脚部を叩いてくれ!」
「了解」
「わかりました!」
「あ〜! ここまできたらヤケだ!」

 御神流・奥義之弐・虎乱!
 御神流・奥義之陸・薙旋!
 飛天御剣流・龍巻閃!

 三本の白刃が巨体を支えている細い足を、見事に切り裂いた。

 ギャオォォォォォォォォォォォ!

 チューブラーベルが絶叫した。
 そこに、今度は黄金色の輝きが激突する。

 神咲一灯流・楓陣刃!

 体液を巻き散らしながら、楓は堅く振れるのも憚れる体液すら吹き飛ばす。
「人の大事な甥をこんな目に合わせたんだから……覚悟はできてるんでしょうね! それに、あたしの出番を殆どなくした作者への恨みを兼ねてくらえぇぇぇ!」
 ご、ゴメンなさい!
 は! だ、誰に謝ってるんだろう……?
 と、ともかく、ひのめの吹き上げた炎の蛇は、削られた表皮を更に突き破って、腐肉の焦げた匂いを巻き上げる。
 動く事もなく、ただ奇声を上げていたチューブラーベルに、今度は背後に回ったシロが最大出力にした霊剣を横に薙いだ。
「……大切な仲間である零にした報いを、今度は己の身で受けるでござる」
 わざと数ミリだけ残して斬ったのは、狼として剣士として自らの決着を決意した零への思いだろうか?
 完全に主要部分を胴体から切り離されても、チューブラーベルは奇声を止めなかった。
 そこへ零が一歩を踏み出す。
 だが、いらないと感じた感覚は、まだ完全ではなかった。
 霊力は満ちているのに、体力が戻りきっていない膝は、あっさりと崩れ落ちようとする。「クソ……! 後は俺が……俺が……!」
 霊気で作った霊剣を杖代わりにして、必死に堪えようとする零は悔しさのあまりした唇を噛み破いた。
 その時、左と右に同時に暖かな感覚が触れた。
「!」
「零……行きなさい。しっかり、ね」
「久遠を……助けてくれてありがとう。だから私も……」
「おキヌちゃん、えっと……」
「神咲。神咲那美」
「ありがとう。那美さん」
 きっと引き締めた瞳がチューブラーベルを射抜く。と、同時に再生成された二文字の文殊が生まれる。
 
 『滅』『却』

「消えてなくなれぇぇぇぇ!」
 退魔を意味する青く清浄な輝きが、小さな境内に満ち満ちた。




         *         *          *

「こんにちは」
「え? あ、ひのめさん!」
 あれから数日が過ぎた。たった数時間だけの異世界は、文殊の力により回復を果たした零と久遠を含めて、全てが元に戻っていた。
 相変わらず久遠は、数日前まで死に掛けていたとは思えないくらいに走り回り、今日も遊びに来たなのはとその友達達を交えて裏山を走り回っている。
 戻った日常に、笑顔を浮かべながら境内を掃いていたところへ、思いがけない客が現れて、すこぶる驚きつつも駆け寄った。
「こんにちは。一体どうしたんですか?」
 決まってるじゃない。心配になったのよ。あれであたしの甥が起こした事件だもの。
 とは言える筈もなく、
「近くに仕事で来る用事があったの。で、ついでに様子を見に、ね」
「そうですか。待っててください。今お茶を淹れますね」
「アリガト」
 中に置いてあるのだろう社殿の中にいそいそと入っていく那美の背中を見て、本当に数日しか立ってないのに、悲しみが完全に抜け落ちたと感じて、ほっと一息をついた。
 夏だというのに、緩やかな日差しの中で、社殿の軒に腰を下ろすのではなく近くにあった木に背を預けた。
 緩やかな日差しが心地よい木漏れ日へと変化する。
 ただ何の気なしに斑模様になる太陽光が、驚くくらいに安堵感を与えてくれる。
「お待たせしました〜」
「あ、ゴメンね」
 軒にお盆を持った那美が出てきて、ひのめはすぐに戻ろうかとした瞬間、目の端に何か動いたように見え、すぐに振り返った。
 だがそこには微風に揺れる草木があるだけであった。
「気のせいかな?」
「ひのめさ〜ん?」
「あ、はいはい」
「そう言えば、零君の両親はどうしてます? 大丈夫でした?」
「それがさ、聞いてよ……。あの二人ったら、誰も来ないからって零の兄弟姉妹作ってたのよ。本当にやになっちゃうわ」
「兄弟……姉妹……あ、あははは……」
 戻ってきた日常に、新しい友人を作り、那美の世界はまた少しだけ大きくなった気がした。









 神社の脇はすぐに深い森になっていた。
 その森の草むらを数センチ程度の角のような物体が――いや、間違いなくそれはチューブラーベルの角であった。
 角はゆっくりとだが真っ直ぐに何処かに向かっていた。
「おや? やっと戻ってきたか。所詮は低級悪魔の奇形種というべきか」
 涼やかな声色にも関わらず、聞くもの全てを凍てつかせる冷酷さが理解できる。
 声の主、氷村遊は口を耳元まで切り上げると、角をわし掴みにした。
「氷村殿、あまり粗末に扱わないでくれないか? そんな姿になっても貴重な種なのだ」
「だから、誰に声を……ふん。わかってるよ。ライラック。今は仲間割れをしている場合じゃないっていうんだろう?」
「そうだ。兆冶殿の六魔陣。これで鍵は二つ。いや、すでに三つか?」
 ちらりとライラックと幸嗣は遊の顔を伺うと、彼は無言のままにやりとただ不気味な笑みを浮かべるだけだった。
「世界最大の尾獣。世界最大になった妖怪。そしてボクがついさっき持ってきた地脈の鍵。四つ目は……まだまだ先かな?」
「時間がある訳ではない。しかし焦っては結果はついてこない。か」
「行こう。石鶴と俺で五つ目を取ってこなければならないのだから」
 三人の男達は、その後は振り返らずにそれぞれの道を歩いていった。





いやぁ! 焦った〜!
夕凪「今回も遅かったわね? どうしたの?」
ん? 実は書いてる最中に小説が保存できなくなってね。
夕凪「……アンタのPCって確か容量……」
おう! 300Gだ!
夕凪「何に使ってるのよ?」
ん? ××とか○○とか……
夕凪「わ〜! わ〜! 女の子に何いってんの……よ!」
ふぐぉ! き、聞いたくせに……。
夕凪「煩い! ヘンタイ! そんな事はいいとして、ようやくGS編終わったわね」
おう! 構想より三話も長い!
夕凪「計画性のない……」
今更今更w
夕凪「そこで開き直らない! とりあえず、これで完全に100話の目処が立ったわね〜」
うん。このペースだと九月までに100話いけるね。
夕凪「で、安藤さんのキャラも次の次の話でやっと登場だしね」
ふっふっふ……。そしてそして……。
夕凪「ついに半年前に迷子さんよりもらったオリジナルキャラが登場!」
次回! 剣心帰郷。みなみと操がラブラブ!? フィアッセとゆうひのダブルコンサートで斉藤乱闘! 瞳ちゃんが○○されてさぁ大変! 編!」
夕凪「……長」




遂にGS編も一段落。
美姫 「そして、100話が見えてきたわね」
うんうん。凄いね〜。
美姫 「誰かさんにも…」
じ、次回からも楽しみだな〜。
美姫 「誤魔化したわね……」
いやー、長いけれど非常に気になるタイトル。
美姫 「一体、どんなお話になるのかしらね」
今からもう楽しみだ。
美姫 「本当にね。次回が楽しみだわ」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃあ、またね〜」



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ