『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




XXXZ・神居古潭

「さすがに驚いたわよ。御架月君が運転してるのかと思っちゃった」
 ミルクティの染みがついたTシャツを着替えて、ペンギンのアップリケのついたシャツに豊満な胸の形をさらすように社内で伸びをした瞳は、助手席でナビゲートしている薫の持つ霊剣十六夜の生前の弟であり、現在は神咲所有の霊剣である御架月に視線を向けた。
「瞳様、いくらぼくでも車の運転はできませんよ……。あ、次の角を曲がって高速道路に入ってください」
 姉とは違い白銀の長髪を項で結び、アメジストのような神秘的な輝きを放つ瞳がまだあどけなさを持つ顔に映える。十六夜と色違いの御子服を着て律儀にシートベルトをしているが、意味があるのかな? と、何気に夕凪は思ったりする。
 パジェロの運転手は、そんなナビゲーターの指示に従い車体を軽快なハンドルさばきで運転していく。
 そんな横顔をしばし眺めて、やはり意外そうに瞳が首を傾げた。
「でもまさか北斗君が真雪さんに頼まれたお迎えだとは思わなかったよ」
 横でまだ具合悪そうに体を揺らしている小鳥を支えながら、真一郎もハンドルを握っている薫と双子の那美の弟の神咲北斗を見た。百六十五センチの男性としては小柄なスタイルで、大型車を手足のように操っている。
 やはり双子なのだろう姉と同じほんのりと小麦色をした髪を、これまた那美と同じ長さで揃え、線の細い印象を与える体を仕事中でもないのに神咲の式服で包んでいる。色は御架月と同じく黒だ。
 北斗は高速道路の入り口で通行料を支払うと、パジェロの巨体をゆっくりと加速させた。
「本当は和真兄が来る予定だったんですけど、今はちょっと裏の仕事が立てこんでまして……」
 裏と言うのは薫や那美が使用する退魔の事で、神咲一灯流と言う。世間的には神咲一刀流という剣道場を営んでいる。
「薫さんも忙しい見たい出し、何か大きな事件でも起きた?」
「……今新聞でよく見かける……」
「吸血鬼事件、ね」
 苦々しく口にするのも汚らわしいといった表情で、瞳は眉を歪めた。それを見て、夕凪を除く二人が顔を見合わせる。
「何です?」
 一人取り残されてしまった夕凪に、瞳はあからさまに顔を背けた。その様子に諦めにも似た色を浮かべながら、代わりに真一郎が答えた。
「俺達が風校にいた頃、氷村遊って奴がいてね。そいつがさくらちゃんや忍ちゃんと同じ夜の一族だったんだよ」
 事の発端は唯子に起きた微細な変化だった。元気と大食だけが取り柄の彼女が貧血で倒れたり、部活を無断で欠席したりと奇行を行い出した。幼馴染がいくら聞いても精気のない顔で何でも無いと答えるだけで、ついに心配した真一郎は夜遅くにでかけたと言う唯子を負って夜の学校に忍び込んだ。そこで同様に進入していた瞳と合流し、そこで氷村遊が女生徒を中心に魅了の魔眼や吸血行為を介して、エサと呼ぶ女性を集めていた。結局、腹違いの兄妹になるさくらの登場により、氷村遊は転校を余儀なくされた。
「その時に千堂先輩も少しやられてね」
「あ、相川君! そこまで言わなくても……」
 余計な話までされてしまい、頬を赤く染めながら嗜めた。しかし夕凪には大体の予測がついたのか、得心顔で頷いた。
「それじゃあ、嫌な気分になりますね〜」
「はぁ……。思い出したくない過ちね」
 どうやら余程苦い思い出なのだろう。大きく溜息を振って頭を振る。
「まぁ、それでぼくが真雪さんに頼まれて、御架月を持ってきたんです」
 後部席の三人が話し終えるタイミングを見計らって、横道に反れていた話題を修正すると、北斗はインターチェンジで道央自動車道へとコース変更した。
「それで……北斗君はどこに向かってるの?」
 どうやら話を聞く程度は回復したが、完全に調子を取り戻す前に車に乗ったのがいけなかったのか、支えられつつも頭が揺れている小鳥にはどれだけの時間、車に乗り続けていれば良いのか? と、いう事の方が問題らしい。具合の悪そうなぼんやりとした瞳でバックミラー越しに北斗に訪ねた。
「目的地は旭川です。そこに楓姉さんが居るから。合流して情報交換してから行動です」
 現在地から約二時間の旅路を宣告され、はう〜と後部座席から可愛らしいうめき声が響いた。

 さて、その頃耕介はと言うと……。
「ぐわ! さ、寒い! 速い! い、いやマジでヤバいって! 瞳! 許して〜!」
 パジェロの屋根の上で、お仕置きとばかりに簀巻きにされながら、旭川までの特等席の眺めを楽しんでいた。
「止めてくれェェェェ!」
 ……合掌。

 一言で言えば洞窟であった。
 入り口から約五十メートルの突き出した先の鋭い岩肌を露出させた道に、天井から染み出した鍾乳石を伝って落ちる雫は、自然が生み出した奇跡の芸術を披露している。そんな、ものの数メートルも進めば光も射さぬ闇の一番奥に位置する広間のように開けた空洞の中心で、雪と対峙したローブの男は、何かに瞑想するように瞼を閉じ、何かに祈るように胸に下げた宝石を握り締めていた。
 宝石は彼の掌の中で煮えたぎるマグマのように何者にも侵されぬグラデーションを持った輝きを放っている。
「どうした?」
 そこへ、闇の中から溶け出すように一人の男が現れた。佐渡島兆冶である。
「いや、突然騒ぎ出しただけだ。どうやら扉が到着したらしい」
「そうか。なら最終段階へ移行しよう。このままでは図体ばかりでかい役立たずの木偶の棒にしかならない」
 ちらりと背後を見やり、兆次の身長をゆうに六倍は背の高い影を一瞥した。正確には影ではなく、影のようにそこにあるが間違い無く放つ気配は巨大であり、少しでも扱いを間違えれば兆冶達は間違いなく瞬間に地獄へと送られるだろう。
「わかっている……。全ては互いの目的のために」
 しかしローブの男は一切動じる事も無く、淡々と言葉を紡いだ。
 空洞はそんな静かな声も反響させ、次第に消えていく。
「海鳴の方でも最終段階に入った。これで計画の半分が終了する」
「では集めよう。我が目的のために」
 ローブの男の言葉に、宝石は静かに輝きを失わせ、神居古潭は静かに震えたのだった。



おお〜。あの巨大な影は。
美姫 「多分、彼ね。原作ではあの後、北海道の開拓に関わってたはずだから」
でも、違ってたりしてな。
美姫 「それはそれよ。これはあくまでも予想なんだもん」
まあ、それもそうか。しかし……。
美姫 「そうね。耕介が……」
あ、あははは〜。少し可哀相だな。
美姫 「まあ、瞳の攻撃を喰らうよりはましなんじゃ?」
どっちもどっちじゃないのか?
美姫 「う〜ん。それじゃあ、どっちがましか、浩に体験してもらいましょう」
待て待て待て!そこで、何で俺なんだよ。
美姫 「そんなの浩だからに決まってるじゃない」
理不尽すぎるぞ、それ!
美姫 「まあまあ」
まあまあじゃない!って、何故体を縛る!
美姫 「さっき説明したじゃない♪」
納得してねーぞ!それに、ここは北海道じゃない!
美姫 「…それもそうね。それじゃあ、とりあえず簀巻きにして、クール便で…」
こらこらこら!何故にクール便!?
美姫 「だって、生物」
生物じゃなくて、生き物!
美姫 「全く細かい事を」
細かくない!
美姫 「じゃあ、飛行の翼にでも括りつけておくか」
おいおいおい!それって耕介よりも酷い扱いじゃないか!
美姫 「全く、私にどうしろって言うのよ!」
何故、俺が怒られるんだ?
美姫 「まあ、この件はあとでじっくりと話し合いましょう」
望む所だ。
美姫 「じゃあ、また次回も楽しみに待ってますね〜♪」
待ってまーす。



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