果てない宇宙の海をエルシオールは静かに進んでいる。周囲には特に危険な障害は見当たらず、平和な航海といっても差し支えはない。

 テラス4崩壊から三週間が経過したが総司令部はいまだ混乱の渦中にあり、それに追い討ちをかけるような知らせが入ったのは一週間前のことだった。

 

『惑星アトムでの内戦が急展開を見せ、樹立した新行政府がトランスバールに対して独立宣言と宣戦布告を行った』

 

 すでに司令部の中にはこの行政府が第二のエオニアとなることを恐れ、大戦力を投入することを唱えるものもいるが、現実にはそれだけの余裕もない。トランスバール皇国は先の戦乱からの復興がようやく軌道に乗り始めた段階なのだから。

 そこでエルシオール――――――皇国防衛特務戦隊にお呼びがかかったわけである。ハッピートリガーとギャラクシーは修理中ではあるがそれも向こうに到着するころには作業も完了する、という整備班からの報告もあって惑星アトムへの派遣が決まったのだった。

 惑星アトムは希少な化学物質が採集できる数少ない惑星の一つである。険しい岩山と渓谷、荒野が広がる不毛の惑星だが、海岸一帯は質の高いリゾートビーチであり、工業と観光の二本柱で生計を立てている。

 そんな惑星に異変が起こったのは五年前。地元住民と本星から派遣されている行政府との間での摩擦が表面化し、ついに紛争が起こった。エオニアの戦乱が起こってからは双方とも沈黙を守っていたが、つい先日紛争が再燃。皇国軍が大敗を喫して惑星アトムから脱出したことにより、事実上現地住民側の勝利となった。

 

「でもなんで独立宣言だけならともかく、宣戦布告までするんだろう。レスターはどう思う?」

 

 ジュースを片手にぼやくタクトを横目にレスターは軽くこめかみを押さえながら、

 

「さあな。だが、ある情報によると地元住民を先導していたのは左翼的武装集団らしい。恐らくその武装集団が政権を握ったんだろう。どのみち向こうに行かなきゃ何も分からん」

 

 肩をすくめてアルモの淹れてくれたコーヒーを口に運ぶ。香りと独特の苦味を楽しむレスターの顔にはささやかな笑みが覗いていた。

 

「アルモ、豆を変えたか?」

「はい。ミントさんに教えてもらった宇宙ブルーマウンテンです」

「よく手に入ったな」

「あはは、ちょっと奮発しちゃいました」

 

 何気ない会話だがタクトはどうもついていけなかった。何せレスターの飲むコーヒーがいつものコーヒーとどこが違うのか、さっぱり分からないのである。

 

「……レスター、分かるんだ?」

「ふん。これが分からんうちはお前もまだまだ子供だ」

「何だよ子供って」

「大人にしか分からん違いという奴だ」

 

 タクトとてもう二十歳は過ぎている。(現在の日本で言うなら)お酒も飲めるし煙草も吸える。だがそれだけではない大人の貫禄というものが、今のレスターから漂ってくる。

 

「大人、ねえ」

 

 つぶやいてタクトは遥か彼方の宇宙へその目を向けた。

 

 

銀河天使大戦 The Another

〜破壊と絶望の調停者〜

 

第二章

第四節 破滅を呼ぶ光(前編)

 

 

 格納庫のハンガーに固定されたギャラクシーを見上げ、アンスは一人ため息をついた。純白の巨人は装甲に傷一つなく静かに佇んでいる。先の戦闘で失われた両腕の修理も終わり、次の出撃への備えは完璧であった。

 だが彼女の表情には憂いが残る。すべてはこの“出来損ない”のためだ。

 不完全な動力機関による極端に短い稼働時間はギャラクシーの可能性を非常に狭めている。現在携行できる兵装のほとんどは大気圏内では使用できず、力不足ゆえに紋章機と常に行動を共にしなければ帰艦することすらままならないのだ。

 それでも幸い最低限の稼動に支障をきたすような欠陥は今のところ見つかっていない。それなりの戦果も挙げている。収集したデータは白き月で開発中の二号機以降にフィードバックされ、最終的には先行量産型の開発に大きな影響を与えるだろう。

 しかし、

 

(いったい、何が足りないというの……?)

 

 彼が残したデータと白き月に保管されていた記録。それら二つを基に造り上げた物はあまりに不完全で、あやふやだった。

 

High Speed Tactical Link……」

 

 超高速戦術情報制御ユニット。通称、HSTLユニット。エンジェル隊の指揮に必要な能力を付加するためギャラクシーに組み込まれた、紋章機のH.A.L.Oに勝るとも劣らないシステムだ。戦闘領域のデータを収集・計算・予測し、パイロットに伝達する高度な演算機構。算出された結果はコックピットのディスプレイに表示され、タクトはこれを元にエンジェル隊に最適な指示を与える。

 

(でもこれは、まだ五十パーセントも駆動していない)

 

 過去二回の戦闘を見る限り、HSTLはその性能を完全に発揮していなかった。おそらく理由はプログラムの中に算出する情報を制限するリミッターの存在。

 そもそもHSTLはディスプレイという媒体を介してではなく―――――

 

≪あんすサン、ドウシマシタカ?≫

「あ、アウトロー……何でもないわ」

≪ソウデスカ。ソウダ、くれーたサンガヨンデイマシタ≫

「ああ、貴方の塗装の件ね。分かったわ。行きましょ」

≪ハイ。ワクワクシマス≫ 

 

 

「どうかなヴァニラ?」

「はい。もう大丈夫、です」

 

 エルシオールの医務室でタクトはほっとため息をついた。二週間前の戦闘でギャラクシーが中破した折の頭の怪我をヴァニラに見てもらっていたのだ。幸い小さな裂傷だったが三日ぐらい前までは大げさに頭を包帯でぐるぐるに巻かれていた。

 ふと医務室の扉が開いたのでタクトとヴァニラがその方を見ると、

 

「やっほー」

「ん、二人ともいたのかい」

「ああ、フォルテ。腕の怪我はもういいの?」

 

 入り口に立っていたのはランファとフォルテだった。フォルテの右腕はギブスで固定されて左肩から布で吊るされている。彼女も前回の戦闘でかるく右腕の骨にヒビが入る怪我をしていた。全治三週間という話だったが、

 

「しばらく戦闘は無理だね。あたし以上にハッピートリガーのほうがよっぽど重症だよ」

 

 そう、ハッピートリガーは蒼のRCSの攻撃を受けて両方の主翼とメインスラスターを破壊されてしまい、一ヶ月は出撃不能という状態だ。修理作業も進められているが今日明日に終わるものではない。

 

「しっかしレスター艦長もあれだけの大敗を喫しても顔色一つ変えないなんて。冷静なのか本当に平気なのかしらねー」

 

 そのもどかしさからか、棘を含んだ口調でランファがぼやくと、タクトは首を横に振ってこう言った。

 

「一番辛いのはレスターだ。ランファ、だからそんなことは言っちゃ駄目だ」

「どういうことだい、タクト」

「あんまり言うべきじゃないんだろうけど………テラス4に駐留していた艦隊の司令はレスターの親父さんなんだ」

 

 

「艦長、もう大丈夫ですか?」

「何がだ?」

 

 艦長室で書類を整理しているレスターにアルモがやんわりと尋ねると、彼はそっけない態度で返してきた。

 

「艦長のお父様のことです」

「何も言うな」

「でも―――――」

「言うな!」

 

 レスターの一喝にびくりと肩を震わせるアルモ。肩で大きく息をしながらレスターは俯いたまま黙ってしまった。

 

「艦長……」

「今は悲しむ暇はないんだ。彼らの――――親父の遺志を無駄にしないためにもな」

 

 彼はそう言った。自分の中からせり上がってくるすべてを噛み殺して、全身を切り刻むような痛みを堪えて。

 アルモは思う。父の死を前にして、それでも彼は艦長の責務を果たすために強くあり続けなければいけなかった。それがいったいどれほど辛いことだろう。その姿があまりにも愛しくて、

 

「アル、モ……?」

 

 気づけば、彼をただ抱きしめていた。ひたすらに腕に力を込めて、自分の心の中に抱くように。

 

「少しは頼ってほしいです。でなきゃ、私、なんで―――――――」

 

 彼女の言わんとすることは分かる。でなければ自分は何なのだ、と。こんなにも、貴方のことを愛しているのに。

 

「すまん」

「え?」

「少しだけこうさせてくれ」

「艦長……」

 

 アルモをそのまま抱き寄せるレスター。そっと、優しく、この愛しい少女が壊れてしまわないように。そうすればもう離したくなかった。何をするでもない。ただこのまま時間が止まってしまえばいいと願う。

 その温かさが、父の死という悲しみを溶かしていく。涙は流れなかった。代わりにその重さはもうレスターの心を縛ってはいない。

 

『艦長、まもなくエルシオールはドライブアウトします。ブリッジへお戻りください』

 

 突然呼びかけられて、二人はおもわずビクッと背筋を伸ばした。幸いブリッジからの一方的な音声メールだったので、こちらの映像は流れていないはずだ。胸をなでおろしながらアルモはレスターから離れた。

 

「それじゃあ、先に行きますね」

「分かった。すぐに行く」

「艦長、一つお願いしても……いいですか?」

「ん、何だ」

 

 はにかみながらアルモは上目遣いにレスターを見上げると、

 

「キス、してください」

 

 ぼむっ、とレスターの頭から湯気が噴き出した。爆発しなかっただけマシだろう。だがアルモはお構いなしで、レスターを見つめたまま動こうとしない。

 

「い、いい、いきなり、だ、な」

「だって、まだしてもらったことないから」

 

 なるほど。これは確かにいい機会だろう。急接近した勢いでいけるところまでいってしまおうという魂胆らしい。一方のレスターは脳髄まで火がついたのではないかと思えるほど、全身から湯気が噴き出している。

 

「――――――」

「艦長……」

 

 

 

 

「では、本当によろしいのかな?」

 

 行政府の応接室のソファーに腰掛けたブレーブ・クロックスは改めて目の前の人物に問い返した。相手は細い蒼の髪が印象的な青年だったが、その彼が持ち出した提案はとんでもないものだった。

 

「かまわない。旧時代の特殊兵器――――――復元完了の核爆弾を三基と、同じく修復した人型兵器を三体。有効に使ってくれ」

「しかも代金は要らないだと? 怪しいものだ」

「いくらでも言ってくれて結構。だがすでにその成果は確認済みのはずだが」

「ああ。確かにあの人型は強力だ。皇国軍の戦力など羽虫も同然だった。しかし、この核爆弾というのは………」

「連中にその名前を出せばもう君たちに手出しはできなくなる。ただし自分たちに極めて近い場所で使わないようにな。巻き添えを食っても保障できん」

「本当にそんなものなのか?」

「ならば奴らに牽制もかねて地方の都市の一つでも吹き飛ばしてやれ」

 

 さらりと恐ろしいことを言う、とクロックスは内心冷や汗をかいていた。この青年は半年前にクロックスの脱獄を助けてからなんだかんだと面倒を見てもらっていた。今ある組織で使っている武器のほとんどは彼からの供給によるものだ。

 己を名乗らぬ、語らぬという条件だけで今までの援助を行ってきてくれた。金銭の類は一切要らないという。いったいどんな見返りを求めているのか、と以前尋ねたことがあったが、彼は笑って「君たちの行く末が見たい」とだけ答えた。

 

「もういいかな? 私もそろそろ行かねばならないから」

「そ、そうか。では完全独立の暁にはまた会おう」

「そうだな。楽しみしているよ。君たちの理想に幸あらんことを」

 

 言って青年は部屋を出て行った。ともあれこれで布陣は完璧である。たとえ宇宙軍といえども陸戦を行うには手間取るはずだ。

 クロックスは勝利を確信して、薄い笑いを浮かべた。

 

 

 

 

「悪いレスター、遅れた―――――――?」

 

 呼び出されたエンジェル隊とタクトがブリッジのドアをくぐると、彼らの前には頬を赤らめてご機嫌なアルモと茹蛸状態のレスターが待っていた。

 

「二人とも、何があったんだ」

「わー」

「へー」

「まあ」

「ほう」

「……」

「どうしたんでしょうか?」

 

 それぞれがそれぞれの反応を見せるが、何も分かっていないのはタクトとちとせだけのようだ。まあ、鈍感なことこの上ないこの二人ならば無理もないだろう。どのみちこれ以上追及してはいけないのが、この場における暗黙の了解なわけで。

 

「あー、おほん。説明を始めるぞ」

 

 レスターの咳払いとともに話は本題に入る。

 

「エルシオールは現在、惑星アトムの衛星軌道上に到着した。すでにアトムから脱出した友軍の救助作業を開始している。またこれ以後エルシオールは現座標に固定して事態の終息までの司令本部として機能する。ここまでに何か質問は?」

 

 誰も手を挙げないのを確認し、レスターが説明を再開しようとするとブリッジに何者かが入ってきた。見た限り軍関係者というよりは民間人という風貌の男女二人は同じような白のロングコートを羽織っている。だがクルーが同伴しているので、おそらく現地の軍の人間らしかった。

 

「えーと、君たちは?」

 

 タクトが尋ねると女のほうが一歩前に出た。柔らかな物腰と腰まで届く金の髪と瞳が印象的な女性だ。

 

「皇国宇宙軍特別監査部、SDT所属のシェイル・マンハッタン少尉」

「同じく、大上院(だいじょういん)通弘(みちひろ)少尉です。惑星アトム司令部より要請を受け参りました」

 

 シェイルの台詞を男――――通弘が引き継いだ。どうやらこの二人は艦隊の中でもかなり特別な部署に配属されている人物のようだが。

 

「レスター、SDTって何だ?」

 

 タクトの呆けた質問にレスターが嘆息交じりに答える。

 

「タクト、一回勉強しなおしたほうがいいぞ」

「うう、申し訳ない」

「エンジェル隊は知らないかもしれんから、まあいいだろう」

 

 その通り、エンジェル隊は誰も―――――フォルテですら知らない様子だった。

 

「いいか。SDTというのはスペシャル・ガード・チーム――――特殊要人警護班といって、最高機密レベルでの要人警護を専門するスーパーエリートチームだ。その強さは一騎当千。白兵戦においては右出るものはいない軍人の中からオールマイティに活動できる人材として選びぬかれた超一流。だがそのSDTが何故ここに?」

 

 そもそも宇宙軍特別監査部は本星を中心に活動する極めて小規模な組織であり、よほどのことがなければこんな紛争地帯にやってはこないのだ。

 その辺りを聞かれると二人も少し顔を曇らせたが、一瞬の後に真剣な眼差しを取り戻した。

 

「先ほども言いましたがアトムの司令部――――つい先日壊滅しましたが、そこからある人物の保護と脱出を依頼されたのです」

「その人物とは?」

「旧行政府総理の一人娘です。神代久美、十七歳。現在はおそらく行政府に監禁されているはずです」

 

 確かに要人警護のエキスパートなのだから当然の回答だが、シェイルの口から語られたのは衝撃の事実だった。何せこれから制圧にいく敵の根城に皇国の要人が捕らわれているのだから。

 

「けど、ならなんで君たちは脱出してきたんだ? 君たちの実力なら問題ないのでは?」

「残念ながらそれは不可能です。相手は歩兵や戦車、戦闘ヘリならばともかく古代の人型機動兵器を持ち出してきました。さすがにあれを相手にしては無理です」

 

 なら戦闘ヘリはいいのか、というつっこみを飲み込んでレスターはさらに質問を重ねていく。

 

「味方の陸戦戦力は?」

「壊滅状態です。残存部隊が首都から二百キロ離れた渓谷に集結しつつありますが、およそ戦闘行為は不可能かと」

「では敵の大まかな戦力は?」

「行政府に三百二十人、首都の空港に四百八十人、郊外の司令基地に二千人あまりといったところです。それから行政府付近に人型兵器が三体配置されています」

「他に特筆すべき事項は?」

「敵勢力が古代の特殊兵器を入手したという情報が入っています。詳細は不明ですが、私はおそらく大量破壊兵器の類ではないかと睨んでいます」

 

 通弘は沈痛な面持ちで目をそらした。シェイルもどこか落ち着かない様子である。曲がりなりにも彼らはれっきとしたプロであり、にもかかわらず警護対象者を置きざりに戦場から離れるのは屈辱以外の何者でもない。

 だが事態はプライド云々で片付くはずもなく。だからこうして恥を忍んで協力を申し出て―――――頼み込んでいるのだ。

 

「しかし行政府を含む首都から半径五十キロ圏内は完全に掌握されている上、陸戦戦力を展開するために必要な拠点はすべて押さえられている。はっきり言って厳しいな」

「そうでもないんじゃないかな?」

 

 スクリーンを見つめたままタクトが言う。そんな馬鹿な、と驚きも隠せずにレスターが詰め寄るとけらけら笑って、

 

「見たところ新政府軍は例の武装集団を中心に構成されている。なら敵の頭を叩けばあとは総崩れになるはずだ。首都に展開している戦力は武装集団のものだけのようだし、行動を起こすための足場さえ何とかなれば……」

「周辺の基地や航空施設は占拠されているが」

「その足場なら私たちが用意するわ」

 

 不敵な笑みを浮かべるシェイルが声高らかに宣言する。その絶対的な自信に満ち溢れた瞳に嘘偽りはなく、通弘はというと一瞬渋っていた様子だったがやはり頷いた。

 だが無謀な策であることに変わりはない。反論しようとするレスターをタクトがさえぎった。

 

「できるのかい、マンハッタン少尉?」

「地上までの足と必要な装備を提供していただけるのなら」

「つまり……君たちが降下して必要な施設を確保すると?」

「首都から北東に六十キロの地点に司令基地が、南西二十五キロ地点に空港がそれぞれあります。空港の南側の山林へ降下し、空港を制圧。同時にエンジェル隊の爆撃で基地を無力化。その後空港を起点に陸戦力を展開、首都を包囲します」

 

 首都があるのはアトムの中でも豊かな自然が残る区画だ。先にも述べた通りだが惑星アトムは地表の七十パーセントが不毛の大地で、特別な設備もなく人が住めるのは海岸部か数少ない土地だけである。そのため市街地や土地そのものへの被害は可能な限り抑えなければならないのだ。

 また制空権まで抑えられたエリアに降下するには高い電子戦能力と機動力を兼ね備えた機体を使用する必要がある。搭乗員や降下するシェイルたちの安全の確保もさることながら、敵の動向を正確に把握してシェイルたちに伝えなければならないのだ。

 白羽の矢が立ったのは当然のようにミントのトリックマスターだった。高い索敵能力と砲撃能力は後方支援にうってつけである。ならばちとせのシャープシューターも該当するのだが、パイロットの実戦への不慣れからミントに決まった。

 

「作戦開始は三時間後だ。エンジェル隊は出撃準備に入ってくれ」

 

 打ち合わせは終わった。しかし皆がブリッジから出て行く中、タクトは一人報告にあった“古代の特殊兵器”の存在を危惧していた。彼は思う。この戦いにおいて人型兵器よりも脅威となりうるのではないか。ロストテクノロジーの産物は往々にして強力なものが多い。効果の種類はさておいても人の扱える範疇を超えているのだ。

 

「あらタクトさん?」

 

 ふと顔を上げると不思議そうに自分を見上げるミントが立っていた。

 

「何か心配事がおありですの?」

「ああ、いや……大丈夫だよ。今回の出撃は地上まで降下しなきゃいけないからギャラクシーには不向きだからさ」

 

 確かに嘘ではない。指揮官たるギャラクシーが出撃できないなど、あまりに格好が悪すぎる。

 未だ稼働時間の長さに難が残るギャラクシーだが、今回の作戦の発案においてその他にも問題は多々浮上していた。ギャラクシーは大気圏内でも活動可能なスペックを有しているが、いざ戦闘を行うとなると使用できる火器がまったくないのである。重力下における砲撃の反動などが主な理由なのだがもう一つ重大な問題があった。

 

「そうでしたわね。ギャラクシー、飛行能力がございませんもの」

「うん……そうなんだよな」

 

 そうなのである。ギャラクシーには大気圏内で飛行するだけの推力を持っていないのである。陸戦のみならばさして重要な問題ではないが、紋章機と行動を共にする以上飛行能力は必須なのだった。

 

「宇宙戦がメインですもの。仕方がありませんわ」

「ありがとう、ミント。とほほ……」

 

 慰めてもらったところで結局空は飛べないタクトとギャラクシーであった。

 

 

 

 

 惑星アトムの首都圏を防衛する目的で建設された第一司令基地は吹き荒れる強風の中、その巨大なシルエットを揺るがせることはない。配備された人員は延べ二千とんで八十七人。最新式の装備を有する文明の守り手は難攻不落の要塞である。

 大概の場合において、クーデターによる政権交代は軍部主導のもとで行われる。当然今回のケースも革命を求める武装集団に駐留軍の中でも現地住民から徴兵された部隊が賛同したことで成功した。もともと本星から派遣されたのは政府の高官と軍の幹部のみで、あとはすべて惑星アトムの住人で構成されている。つまり、惑星アトムの戦力のほとんどが革命側についたのだ。

 負けるはずがなかった。宇宙空間における艦隊戦ならばともかく、こと地上戦においてろくな経験も積んでいない皇国軍など物の数ではなかったのである。そして後半から登場した人型兵器によってますます劣勢に追い込まれた皇国軍はついに宇宙へ撤退したのである。

 勝利を確信した彼らはこれから歩むであろう輝かしい未来へ思い耽っていた。それも至極当たり前であろう。彼らは事実勝利したのだから。

 

「基地上空より高速で接近する物体を感知! 数、五!」

 

 管制室に緊張が走る。宇宙へ撤退した皇国軍が衛星軌道上から新たな戦力を投入した可能性が高いからだ。無論それは予測していた事態である。そしてそのための策はすでに用意されていた。

 

「慌てるな、対空防御システムを起動させろ!」

 

 皇国軍の中でも最先端の技術を駆使して構築された無数の対空砲の陣地は基地を取り囲むように何重にも展開していた。それらが一斉に起動し、今もなお迫り来る敵へ狙いを定める。

 

――――――――いや、定めた瞬間に崩壊した。

 突如基地の一角に頭上から放たれた光の矢が突き刺さり、衝撃と炎を振りまいて爆発する。たったそれだけで完璧なまでに造り上げられた護りは失われた。

 

「対空防御管制室が被弾、応答ありません! システム稼働率0.3%!」

「なんということだ!………行政府に、クロックス氏に通信だ!」

「りょ、了解!」

 

 彼らが混乱しながらも次の行動を選ぶ間に敵との間合いは果てしなく縮まっている。二撃目が基地の弾薬庫を貫通し、盛大に炎を吹き上げた。

 

「通信がつながりました!」

『何事だ、司令!? 何があった!』

「ミスタークロックス、緊急事態だ! 敵の攻撃を受けている! すでに対空防御システムは停止し弾薬庫も破壊された!」

「司令! 上空より高エネルギー反応!」

 

 もはや絶望的だった。彼らに逃げる道はもうどこにもない。

 何故ならば、彼らを撃つのは神の御手に守られた―――――

 

「総員退避! 退避だ、急―――――――――」

 

 その刹那、彼らは一人残らず光に包まれる。天より降る光の剣が基地施設と地表を突き抜け、地下の動力施設を切り裂いた。沈黙は一瞬、あとは奈落から吹き上げる劫火がすべてを焼き払う!

 

「基地の消滅を確認。作戦成功です」

「おー、無事に終わってよかったー」

『まだだよ。ちとせ、ミルフィー。新手が来た』

 

 高空より緩やかな螺旋を描きながら舞い降りる五つの紋章機に群がる羽音が数多に。その正体を察知したちとせが声を上げた。

 

「む、無人攻撃ヘリ!?」

『らしいね。ここはあたしらで何とかするから二人はエルシオールへ戻るんだ。消耗が激しいだろう?』

「分かりました」

「フォルテさん、がんばってくださいね!」

 

 すぐさま上昇を開始するラッキースターとシャープシューターを見送ることもなくフォルテは遥か地上を見下ろした。『ハンター』と呼ばれる無人攻撃ヘリの群れは二手に分かれ、内一手がこちらに向かってくる。

 

「二手に分かれた……ミントを見つけたのかい!」

『フォルテさん、私たちも二手に』

「ヴァニラ……そうだね、ランファは向こうを、こっちはあたしたちで」

『わっかりました! じゃ、いっきまーす!』

 

 答えるのももどかしく一気に地表へ降下していくカンフーファイター。それへハンターの何機かが群がろうとして瞬く間に蜂の巣になる。

 

「お前たちの相手はあたしらだって………言ってんだろうがぁぁぁっ!」

 

 高出力のレーザーに撃ち抜かれ、なおもカンフーファイターへの突進をやめない狩人たちを容赦なくフォルテは食い破っていく。

 ともかく急がなければ最悪の事態になる。ミントのトリックマスターにはあの二人が乗っているのだから。

 

 

「接地確認。ハッチを開きますわ」

「じゃあ、バックアップよろしく」

「ええ。お任せくださいな」

 

 開いたコックピットハッチから飛び出て行く通弘たちを確認してから、ミントは現在の状況を再確認する。全紋章機の中で最大最高のレーダーシステムを搭載するトリックマスターには、本来こういう任務のほうが適している。

 後方からの情報支援による味方のサポート。そのためのフライヤーであり、そのためのレーダーシステムである。

 それをあえて前線に出て仲間とともに戦うことを選択したのは彼女自身の意志であり、守られることへの反発でもあった。

 昔話はやめよう。今はただ自分のすべきことに集中するだけだ。

 

(あら、接近する熱源が………)

 

 思うより早く体が反応した。アイドリンク状態だったエンジンに活を入れてトリックマスターを飛び立たせる。近づいてきているのは無人攻撃ヘリの群れだ。この程度、と考えるよりも早く事態の深刻さに気づく。

 確かに紋章機の前に無人ヘリ(羽虫)の群れなど物の数ではないだろう。だがその群れを蹴散らす間に、足掻く一匹が通弘たちにミサイルを撃つなり突っ込むなりすればそれでこちらの敗北となる。

 

「面倒ですわね……」

 

 だが忘れることなかれ。

この場を支配するは謀略の女王――――――

 

「お仕置きですわ! フライヤーダンス!」

 

 いかに優れた兵器といえど、彼女の前ではその掌中で滑稽に踊り狂って果てる以外に残された結末(みち)は存在しない――――!

 蒼穹を駆け巡る“舞い踊るもの(フライヤー)”はすなわち、女王の忠実な下僕にして反逆者に死を打ち込む執行人である。縦横無尽に戦場を駆け巡り、主のために鈍重な獲物に牙を剥く。無人ヘリを操るA.I.は地べたを舐めて初めて己が落ちたことを知るだろう。

 事を片付けるのに一分とかからなかった。舞い落ちる残骸たちと舞い踊る天使の僕。その中でミントは一人、大地を駆け抜ける二匹の獣の姿をみつめていた。

 

 

 

 

「聞いたか、第一基地が吹っ飛んだって」

「ああ。皇国軍の特殊部隊だってな」

 

 空港を占拠する武装集団『真・浪漫解放戦線』の兵士たちにも司令基地消滅の報は届いていた。本星で活動を続けていた彼らは半年以上前に壊滅的打撃を受けて霧散したのだが、何者かの手引きで脱獄してきた首領・ブレーブ・クロックスの指導の下で蘇ったのだった。

 

「ともかく我々も戦闘準備だ。いつ奴らが攻めてきてもおかしくないぞ」

 

 その判断は正しい。彼らは各々の持ち場に戻って敵の襲撃に備える。

 ただ驚くべきことに、彼らは通常の小火器の他に皇国軍から接収した多足歩行戦車を十三両も保有していた。機体上部に取り付けられた二十ミリ機銃と対地ミサイルを装備するそれは、空港を取り囲むように展開する。

 

 その光景を二匹の白狼が静かに見つめていた。戦力の差は圧倒的であり、こちらの装備はあまりにも貧弱だった。

 空港からおよそ一キロ離れたブッシュの陰で通弘たちは準備を終えていた。シェイルはバラしてあったのを組み上げた対戦車ライフルを脇に抱えている。

 これ以上時間をかける必要はない。

 

「いいな……?」

「ええ」

 

 茂みの影から飛び出した通弘が独走を開始すると同時に、ライフルを構えるシェイル。すでに歩行戦車部隊は通弘の接近を察知して、彼に狙いを定めようと転進した。

 

「っ!」

 

 機銃が火を吹き、むき出しの大地を銃弾が所狭しと削り取っていく。立ち上る砂埃と跳弾を掻い潜り、通弘は単身、鋼の包囲網を突破せんとさらに加速した。

 その後ろで歩行戦車の一両が鋭い金属音と同時に挙動を停止し、一瞬遅れて小さな爆発を起こす。すぐ側のもう一両も同じように破壊されると、ようやく彼らは遠距離からの攻撃だと気づいた。

 

(こっちに気づいたわね)

 

 思うよりも早くライフルを抱えてシェイルは跳躍する。一瞬前までいた茂みへ間髪いれずにミサイルが突っ込み爆炎を吹き上げた。だが彼女はそれに身じろぎもせずに空中でバランスをとり、三両目の歩行戦車を狙撃、破壊する。

 着地と同時に次弾を装填、四両目のエンジンを撃ちぬきそのまま通弘の後へ続く。

 すでに歩行戦車は残り九両。たった二人の歩兵によって包囲網は突破され、空港はまもなく戦場と化すだろう。

 

「ば、化け物め……なんとしても奴らを止めろ!」

 

 言われるまでもない、と全ての戦車が通弘たちに殺到する。いかに彼らが超人的な戦闘能力を持っていても数で攻められればひとたまりもあるまい。誰もがそう確信し疑わなかった。

 

「シェイル……先に行け」

「……了解。死なないでよ?」

「無論だ」

 

 それまで無表情だった通弘の口元が歪む。かがみこむように急停止した彼を追い越してシェイルは空港へ直進し、

 

「いくぞ。末期の念仏は十分か?」

 

 抜き放つは黒く塗られた二振りの刃。全身の筋肉を引き絞り、ばねの様に跳ぶ。そのスピードは明らかに人のものではない。

 

「う、うわあああああぁっ!?」

 

 絶叫がコックピット内に木霊し操縦者たちは肉薄する殺戮者に恐怖する。手は震え、心臓は鷲づかみにされたようにぎこちない脈動を繰り返すだけ。

喰らいつかれた歩行戦車はまさしく狩られる獲物となる。機銃の掃射さえ間に合わず、両の前足を関節から切断されて大地に伏した。噴き出す燃料はまるで血か体液を髣髴とさせる。

 そこからは彼の独壇場である。乱戦の坩堝と化した戦場で絶えず自分たちを盾に動き回る通弘を歩行戦車部隊は捉えることができない。同士討ちを繰り返し、彼の二刀が限界を超えて折れるのとすべての獲物が息絶えたのはまったく同じ瞬間であった。

 

 シェイルもすでに掃除を終えていた。立ち尽くす彼女の瞳は何も捉えておらず、周りに転がるのは解体された死体の群れである。その数は三百余り。

 ある者は胴体と腰が分断されている。

 ある者は首から上が天井に突き刺さっている。

 ある者は四肢を切断されている。

 ある者は五臓六腑を撒き散らして果てている。

 ある者は今もなお四散した己を見て笑っている。

 そこはまさしく地獄絵図だった。生者はただ一人、あとはすべてただの“何か”である。もはや人としての存在を留めていない。

 

「ずいぶん派手にやりましたね、シェイル」

 

 顔を上げると普段と同じ口調に戻った通弘が顔をしかめて立っていた。だが彼もこの死臭が立ち込める惨状に特別な反応を示さない。彼もまた戦場に生きるもの故に。

 

「………はあ、しょうがないでしょう? 数が数だもの」

「それは構いませんが、これでは後始末する人たちが大変ではないですか」

「よく言うわよ。なら貴方が片付けて差し上げたら?」

「時間があればそうしましょう。とりあえず戻りますか」

 

 苦笑する通弘と不機嫌なシェイルは肩を並べて空港を後にする。

 残されたのは奪回された陣地と、無数の亡骸だけだった。

 

 

 

 

「艦長! 地上のトリックマスターから通信です!」

「分かった。メインモニターに回してくれ」

 

 すでに基地消滅の報をフォルテから知らされていたレスターとタクトは今か今かと待ちわびた連絡に思わず席を立った。

 

「ミント?」

『ええ。空港に制圧に成功。五分前に通弘少尉ら二名が帰還しましたわ。今は下で休憩を取っています』

 

 ミントの報告にブリッジから歓声が沸き上がる。ともかく首都圏内の敵勢力が低下したことでこれからの作戦が展開しやすくなったのは事実だ。今のアトム新政府には基地を再建するだけの余力はないはずだし、そんな時間を与えるつもりもない。

 

「そうなるとあとの問題は向こうの人型機動兵器と………」

『神代久美の救出です、マイヤーズ大佐』

 

 いつの間にやらトリックマスターのコックピットに入ってきた通弘がタクトの言葉を引き継いだ。

 

「少尉……すまないけどエルシオール(こっち)には白兵戦を行うだけの人員はない」

『では救出作戦は行わない、と?』

「いや。君たちにお願いしたいんだ」

『我々に、ですか』

「うん。俺たちは直接はさすがに無理だけど支援はできる。駄目かな?」

 

 数秒、通弘は考えあぐねている様子を見せたが、

 

『分かりました。どちらにせよ救出作戦には志願するつもりでしたし』

 

 なるほど、やる気は満々だったわけだ。

 

「では一度エルシオールまで戻ってくれ。トリックマスターの補給と整備を行った後、再度降下してもらう。詳細はこちらで話そう」

『了解しました――――――』

 

 そう言った矢先、ミントが切迫した表情で会話に割り込んできた。

 

『タクトさん、お待ちくださいな。全周波数で通信が』

「こちらでも確認しました。発信源は………アトム行政府です!」

「回線658から766で受信を開始。画像不鮮明ですがモニターに回します!」

 

 ブリッジのオペレーターたちが矢継ぎ早に報告していく。

 

『惑星アトムを包囲する皇国宇宙軍に告ぐ。私は新政府代表のブレーブ・クロックスだ』

 

 ブレーブ・クロックス。言わずもがな、十ヶ月前、テログループのリーダーとしてフォルテとランファによって逮捕されたはずの男だ。

 実のところ、逮捕されてから二ヶ月足らずでクロックスは本星の特別刑務所から脱獄していた。何者かの手引きがあったと見られているが未だに共犯者の手がかりすら見つかっていない。その彼がかつての仲間と合流し、アトムで活動を再開したことは軍の諜報部ですら掴んでいない事実だった。

 

「くそ……いったい何が目的なんだ」

 

 レスターが歯がゆそうにモニターをにらむ。一方的に流されている放送を受信しているためこちらの声が向こうに届くことはない。

 

『諸君は未だ自身の敗北を認めず、アトムの衛星軌道上からの攻撃や活動を続ける地上部隊によって住民の不安を煽ることを繰り返している。よって私は再び皇国軍の排除を宣言し、その第一段階として抵抗を続ける極悪極まりない皇国軍地上部隊に正義の鉄槌を下す』

 

 その時である。エルシオールのセンサーが惑星アトムの超高空を飛行する高熱源体を感知した。それは徐々に高度を落としながらある場所を目指しなお加速していく。

 そして皇国軍の地上部隊が集結している渓谷に到達した瞬間、ブリッジにいた全員が絶句した。

 すべては一瞬だった。突然まばゆい光を放ったと思うと次には巨大なキノコ型の雲が出現する。エルシオールから分かるのは衛星軌道上からの映像のみで、キノコ雲が出現した地点の周辺はひどい電波障害が発生していてセンサーがまったく役に立たなず、状況を確認することもままならない。

 吹き荒れる熱風と破砕された岩石の嵐の中で人が生き延びることは不可能に等しい。それはすなわち生き地獄である。あらゆる生命の存在を許さぬ灼熱の領域の中心はあらゆる物質が灰燼に帰す。

 渓谷は抉られ融解しその形を変えた。

 岩陰に逃れて難を逃れた者は渦巻く粉塵と熱、猛毒の波動に侵され息絶える。

 まともに爆発と対峙した人間はことごとく消し飛び、距離を置いていたとしても熱波に全身の皮膚を溶かされ、人外の苦しみの中で果てるしかない。

 救いは死。

 生は何よりも耐えがたい苦痛だった。

 

「高解像度、光学映像でます!」

 

 メインモニターに移ったのは、先ほど飛行していた一基の大型ミサイルだった。詳しい構造分析結果が遅れて小さなウィンドウに表示されると、アンスが血相を変えて叫んだ。

 

「これは………核弾頭!?」

 

 聞きなれぬ単語にタクトたちが顔をしかめる。その中でもフォルテは何か心当たりがあるのか、呟くように尋ねた。

 

「以前本で読んだんだけどさ、大型ミサイルに特殊な弾頭を使用することで威力を上げることができるんだっけ?」

「ええ、まあ。それよりも問題なのはあれに使われている弾頭です」

「核、が?」

「核弾頭というのは原子核を反応させて発生する膨大な量のエネルギーを爆発させる核兵器の一種です。現在では失われた技術であり兵器ですが、フォルテさんたちが遭遇した人型兵器は核反応を動力に使用していました。恐らくこの核弾頭も発掘されたものと思われます」

 

 現在もさまざまな大量破壊兵器が存在するが、かつての世界にもこれほどの破壊兵器が存在していたとは。アンスはエルシオールでは整備班の人間だったが、その前は白き月でブラックボックスになっていたデータファイルの分析を行っていた。その経歴と培ったロストテクノロジーの知識を注目され、エルシオールの整備班に引き抜かれたのだ。

 不意にレスターが声を上げる。

 

「爆発したときの威力はどうなんだ?」

「詳しいことは現状では分かりません。ただこの爆発の規模からすると、半径十キロ以内で生存者はとても……。仮に十キロ圏内の外にいたとしてもほぼ即死でしょう」

「くっ……」

 

 悔しさにタクトが唇を噛む。すでにその核弾頭は爆発した。皆が呆然とする前でさもそれが自然の摂理であるがごとくその役目を全うし、

 

「助け、られなかったのか………っ!」

 

 放送はまだ続いている。若干ノイズの混じった声が告げる。

 

『今から六時間の猶予を与える。その間に撤退ないしそれと見られる行動が行われなかった場合、諸君は己の傲慢さを悔いることとなる』

 

 ぎしり、という歯軋りの音が響く。他ならぬタクトが俯き、何かに耐えるようにぐっと噛み締めている。

 いや、誰もが悔しいはずだ。地上に取り残された彼らに戦う力など残っていなかったろう。それを見せしめのためだけに、無秩序に殺されてしまった。

 それは詭弁だ。曲がりなりにもこれは戦争。敵を叩くことが間違ってはいない。だからこれは感情だ。

 そう、これは仲間を殺された―――――――復讐の念。

 

 このままおめおめと逃げ帰ることなどできるはずがない。

 同胞を殺されて黙っていられるわけがない。

 押さえきれない感情を胸に、今は反撃の機会をうかがう……

 

 

 

「くそ。間に合わなかったか………」

 

 立ち上るキノコ雲を見上げ、男―――――アポリオンは悔しげにつぶやいた。

 本星での一件以来、ブレーブ・クロックスとその組織の調査を続けてきた彼は一ヶ月前、この惑星にたどり着いた。横流しされる数々の兵器。短期間での組織の再結成と住民の人身掌握。軍部まで味方につけての大反乱は彼らの圧倒的勝利に終わった。

 そのすべての流れを調べ上げた彼は知った。クロックスの背後から様々な協力を行ってきた存在を。

 

 ともかく事態の収束はエルシオールに任せるしかないだろう。今の彼にはそれを成し得るだけの力がわずかに不足していた。

 

 

 


第九回・筆者の必死な解説コーナー

 

ゆきっぷう「こんにちは、ごきげんよう。今日の世界情勢はいろいろと複雑に絡み合ってございますが、本編の方も事態がどえらいことに……」

 

ランファ「お前のせいだろうがぁぁぁっ!」

 

ゆきっぷう「ぐふぅっ!?」

 

ランファ「まったく。あんなものを持ち出すなんてどういう神経してるのよ! 掲載中止になったらどうする気!?」

 

ゆきっぷう「し、しかたがないだろう! だって、ガン○ムネタとしてこれは必須かと。それにタクトには色々がんばってもらわないとさ」

 

ランファ「いいけど。またシヴァ陛下から『まっど・じぇのさいだー』って言われても知らないわよ?」

 

ゆきっぷう「ふっ、その程度で挫ける俺ではない!」

 

ランファ「いや、挫けなさいよ。むしろ反省しなさい。いますぐ」

 

ゆきっぷう「お、俺は別に悪いことしてない」

 

ランファ「まだ言うかぁぁぁぁっ!」

 

ゆきっぷう「ほぶはっ!? 何をする、今のはあとがきじゃなかったら即死だったぞ!」

 

ランファ「まあ、それはどうでもいいけど。ところで今回の新キャラはどういうことかしら? そんな話、聞いてないわよ」

 

ゆきっぷう「それは話すと長くなるのだが………ストーリーの進行と演出に必要不可欠な要素だったんだ。ほら、エンジェル隊だとああいう戦闘できないでしょ?」

 

ランファ「そもそも作品の風潮とマッチしてないし。あんなスプラッタなシーン連発して、もし読んでくれてる人が食事中だったら大ピンチよ!?」

 

ゆきっぷう「んー、まあ、ね。あのキャラたちは元々、俺が書いてるまったく別の作品で起用してる奴だし。それに例の爆発の描写は時事的にどうかと思ったんだけど、あえて書いてみました。戦争の記憶を風化させてはいけないんだ」

 

ランファ「あんたは戦後生まれでしょ!」

 

ゆきっぷう「む、それはいけないランファ。生まれが戦後だろうが戦前だろうが戦中だろうが、そういう事実があったということを正しく認識して今後の世界平和に貢献することが求められているのだぞ?」

 

ランファ「せ、正論ね。ともかくほどほどにしておかないと後ろから刺されるわよ?」

 

ゆきっぷう「ん、誰にさ?」

 

ランファ「ああ、彼とか」

 

アポロ「………………」

 

ランファ「彼とか?」

 

アヴァン「………………」

 

ゆきっぷう「やれやれ……ではそろそろ時間だな」

 

ランファ「はいはい。じゃ、また来週!」




今回もシリアスな展開。
美姫 「果たして、タクトたちはどう動くのか」
にしても、ブレーブって奴は。
美姫 「本当に酷いわよね」
…お前が言っても説得力が、いえ、何もないです、はい。
美姫 「次回はどんな展開を見せるのかしらね〜」
きっと、残虐な行為を行った彼らに正義の鉄槌が下る!
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜」
ではでは。



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